18 : 肉料理!
ーー料理を作る音がする。
包丁を使う音と薪が燃えている音、それに肉を焼く匂い。
肉……。そうだ、確か俺はブルコッドを倒してーー。
「あっ、起きました?おはようございます。……と言ってももう夜ですが」
エプロンを着たユイが、お玉を持ちながらそうはにかんだ。
窓を見ると外は真っ暗。どうやら今は夜のようだ。
ベットで寝ているらしい上半身を起こし、気絶するまでの事を思い出してみる。
「確かブルコッドの大群を追い返して、その内の一匹を炎魔法で倒したんだよな……?」
「はい、それは見事な機転と炎魔法でしたよ。でもあの後倒れちゃったんです。なのでタクヤさんが目覚める間に、倒したブルコッドを解体して料理してたんです」
「そっか……。ありがとな。ユニは戦闘中はずっとめうを撫でてただけだったけど」
「あっ、あれはちょっと動揺してただけですっ。それよりも晩ご飯を食べましょう!腕によりをかけて作りましたよ」
ちょうどお腹が空き始めていたところだ。
ベットから立ち上がり、椅子に腰掛ける。
次々と机の上に置かれていく料理は、どれも美味しそうなものばかりだ。
久々の肉の匂いに、思わずお腹が鳴ってしまう。
「おお……っ!これがあのブルコッドか……!」
「はい、頑張って解体しました。背ロースのステーキに岩塩焼き、それとモモ肉のスープに薄めの味付けをしたバラ肉です。……材料は何もないのに調味料だけは豪華だったので、種類は作れたんですが。その、ご飯が……」
「いや大丈夫だよ。こんなに種類があるなら飽きないし、ユニが丹精込めて作ってくれた料理だ、単品でも美味しすぎるくらいだよ、きっと」
「……はいっ!じゃあいただきましょう!」
いただきますの仕草をして、早速料理を口に運ぶ。
香ばしく食欲をそそる香りが、次第に鼻に近づいてきてーー。
「……ふはっ!ううっん……………めぇーーーーっっっ!!!!」
異世界に来て初めての肉料理。
牛や豚、鶏とは格段に違う美味しさだ。
肉質は柔らかく脂はしつこくない上に旨味があり、噛めば濃い肉汁が口に溢れる。ユニの調理の上手さも相まって、どの料理も最高の出来になっていた。
「枯死草も美味しかったけどやっぱ肉も美味いな!頑張った甲斐があったってもんだ……」
「そこまで喜んでもらえるとなんだか照れちゃいます。タクヤさんに喜んでもらえて何よりです」
嬉しそうに笑うユニ。
美味しい料理に可愛い同居人。
異世界に来た価値が、ここには詰まっている感じがした。
突然ユニはあっ、と何かを思い出したように呟くと、人差し指を立てて拗ねたような顔をする。
「そうだタクヤさん、これからは魔法の使い過ぎに気をつけて下さいね。確かに物凄い威力でしたが、その分魔力切れの際の反動も凄そうなので」
「魔力切れ……?なにそれ」
「……。魔力切れを知らずに今まで生きてきたって、タクヤさんのいた村はどんな魔境なんですか……」
驚きと呆れが半々に混ざった表情をしながら、自分が飲み干したコップを俺の前に置いた。
「魔力というのは、その人自身に存在する魔素の量の事を指します。普段私たちは空気中に沢山存在する魔素を吸収して濃縮し、これを使って魔法を発動しています。賢者などの魔法が得意な人たちは、この魔素の吸収スピードや自身が持てる魔素の量、魔法を発動する際に使用できる魔素の量が凄いんです」
そう説明しながら、コップに水を注いでいく。
なるほど、このコップが俺自身で、水が魔素ってわけか。
「当然、魔法を発動するということは魔素を大量に消費することに繋がります。そして魔法を限界まで使い身体中の魔素を使い切ると、魔素の欠乏によって倒れたり体調に深刻な異常をきたしたりしてしまいます。これが魔力切れです」
コップに注いだ水を一気に読み干すユニ。
再び机に置かれたコップには、一切の水が残っていなかった。
これが今の俺の状況か。
「ごめんな、悪かった。これからは魔法を使いすぎないようにするよ。今は体調が回復してるんだが、これは魔素を最低限吸収できたってことでいいのか?」
そう、今は前と変わらないくらい体調が良い。
腕を回して元気をアピールする俺をみて、ユニはまた不思議そうな顔をする。
「そこなんですよね……。普通魔力切れを起こした人が最低限の魔素を吸収するには1日は必要なんですが……。今のタクヤさんはもう満杯なんですよね……」
あっこれはまずい、俺があまりにもチートすぎてユニが怪しみ始めている!
異世界から来たことや女神から万能チートをもらったことが知られるのはなんとなく避けたい。
「ま、まぁ生まれつき魔法には恵まれてたからな!それよりさ、明日の話をしよう。肉も採れて食事が豪華になってきたし、そうだな……。栽培に着手し始めよう!安定した供給がほしいし、なにより毎回あんな無茶をしてたら体がもたないしな」
「栽培……。良いですね、やりましょう!是非やりましょう!」
ユニはそう叫ぶと、今までとは比にならないほど目を輝かせて、俺の前に近づいてきた。
「私、栽培が大っ好きなんです!!」




