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16 : 俺が使おう

 ーー翌日の朝。


 ユニ特製のトラップの前に立ちながら、二人で昨日の反省をしていた。


「何が敗因だったと思う?」


「匂いの強さ……は大丈夫だったと思うんですが。単純に周りにブルコッドがいなかっただけかも……」


 ユニの臭気魔法陣から発生した甘い匂いは、10数m離れた俺の鼻には届いていた。


 人間の数百倍は鼻が効くというブルコッドなら、数km離れた場所でも匂いを探知できただろう。

 それでも誘き寄せられなかったということは、近くにいなかっただけなのかもしれない。


 ブルコッドが近くにいそうな場所まで移動して臭気魔法を使いまくる、という方法もあるが手間がかかりすぎる。


 ……ならば。


「なあユニ、俺に臭気魔法を教えてくれないか?」


「いいですが……。基礎魔法の合成魔法なので、習得はかなり時間がかかりますよ?」


「多分大丈夫だ。俺は魔法に関しては自信があるんでね」


 女神がくれた万能チート。

 魔導書で名前を知るだけで魔法が使えるのなら、臭気魔法も名前を聞くだけで使えるようになるはずだ。


「じゃあまずは炎魔法と発生魔法の第六芒星陣との統一合成陣を描いてください。そこに煙魔法の第三韻を……」


「いや待って。そこら辺は置いといて……。臭気魔法の名前を知るだけでいいんだ」


「そういうものなんですか……?臭気魔法は『スメリム』と言いますよ」


「スメリム、スメリムか……。よし大丈夫だ、早速やろう」


「ええもうですか!?」


「ほら、魔法を使うからもうちょい後ろに下がるぞ」


 大きく口を開けて驚くユニを連れて、昨日待機していた地点まで下がる。

 臭気魔法の名前が分かったのだ、いつも通りならもう使えるようになっているはずだ。


 ここまで言っておいて使えなかったら恥ずかしいが、女神のくれた万能チートを信じることにしよう。

 緊張を払うように手をぶらぶらと動かして、いざ発動しようと口を開くと。


「タクトさん、魔法陣を描くのを忘れていますよ。緊張しいなんですね」


「え!?臭気魔法って魔法陣を描かないと使えないの?」


「臭気魔法に限らず、どの魔法もそうですよ。基礎魔法でさえ必要なんですから」


 ふふっ、とユニがはにかむ。


 どの魔法も魔法陣が必要……。

 ということは今まで使っていた召喚魔法も浄化魔法も炎魔法も、本来は魔法陣がないと発動すらできなかったのか。


 それを魔法陣無しで何回も……。

 ーー女神くれた能力は、やっぱりガチのチート能力だ……っ!!


「いや心配しなくていい。俺の村では魔法陣を使わない魔法が主流だったからな」


「え、いや、え?魔法陣がいらない、って、え?」


 俺の言葉を理解できないかのようにぽかんとしている。

 まあそれもそうだ、今までの常識が覆されたら誰だってあんな反応をするだろう。


 落ち着くためにふーーっ、と息を吐いて、今度こそ腕を伸ばし、臭気魔法の詠唱をする。


「ーー『スメリム』ッッ!!」


 すると特製トラップを中心に、薄緑の煙がもくもくと立ち上がり始めた。


 なんか想像していたよりもしょぼい。


「あれ、あんまり発動できてなーー」


 その瞬間、そこを中心として爆発が起こったと思うほどの量の煙が、俺たちを包んだ。


 突如吹き荒れた強風と煙。

 俺とユニは地面に屈んで、飛ばされないよう必死に抵抗する。


「や、べーーっ!本気で使いすぎた!!」


「本気、というか、なんですかこの威力ーー!匂いが実体化するなんて、初めてですよっ」


「すまん、加減を忘れて、いたーーっ!」


 臭気魔法でブルコッドを誘き寄せるには匂いの量が足りないと言っていたので、じゃあ俺が本気で使えば十分足りるか?と思って本気で唱えてしまったが。

 まさかここまで酷い威力になってしまうとは。


 ただ一つラッキーなのが、発生した煙がちゃんと甘い匂いだということだ。

 伊達に半日も嗅いでいたわけじゃない。


 これが他の、例えば臭い匂いとかだったらショックで死んでいたかもなーーなんて思っていたら、ようやく風が止んだ。


 立ち上がってみると、まだ甘い匂いは残っているものの殆どは拡散して消えていた。


 服に着いた砂を払いながら、未だに唖然としているユニに声を掛ける。


「ごめん、次からは加減するよ」


「いやそれよりも、なんなんですかあの威力。それに名前を聞いただけで使えるようになる、なんて聞いたことないですよ」


「凄いだろ、俺のいた村の技術は」


「凄いというか、トンデモ魔術というかーー。ってタクヤさん、何か地崩れみたいな音がしませんか?」


 そう言われて耳をすませてみると、確かに遠くの方からズズズと音が聞こえるような気がする。


「それに、段々大きくなってきている気が……」


「確かに大きくなってきてるな。もしかしてブルコッドが来てくれたんじゃないか?なんて」


「いえらタクトさん。あれ、あれ……」


 ユニが震えながら指差す方向を見ると。


 そこには百匹を軽く超えるであろうブルコッドの集団が、巨大な群れとなってこちらへと向かってきていた。


 地崩れのような音の原因は間違いなくあれだ。

 あの巨大な集団が動くたび、地震でも起こったかのような低い音が周囲に木霊している。


「…………ユニ」


「……なんでしょうか」


「………………ごめん」


「謝ってすむ問題じゃないでしょーー!!どうするんですかあれーーーっ!!!!」


 ユニは泣き出しそうな顔で叫んだ。


 本当にごめん。

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