15 : 自信作のトラップ
「心配だなぁ……」
椅子に腰掛けてめうを撫でながら呟く。
罠が完成するまで待っててくださいと言われてたものの、14歳の少女一人に罠の設置を任せるのは危険な気がする。
「めうもそう思うよな」
「めうめうめう」
相変わらず言葉を分かっているのかいないのか、よく分からない反応をするめう。
「適当に返事してるだけじゃないだろなーー?」
「めうーーー」
めうを思い切りもふっていると、急に扉が空いた。
「できましたよタクトさん!私の考えたさいきょーのトラップです!」
額に汗を流したユニが自信ありげな顔で飛び込んできた。
……これはあれだ。
名前的にダメなやつだ。
✳︎
家から少し歩いた距離に、ユニの言う『お手製トラップ』がポツンと置いてあった。
といっても地面に木の板が数枚置いてあるだけで、どう見てもトラップには見えない。
「……あれがトラップか?」
「ええ、かなりの自信作ですよ。地面に臭気魔法陣を描いて、そこからブルコッドの好む匂いを発生させるんです。匂いが拡散して薄くなってしまうのを防ぐため、木の板を並べて少しだけ隙間を持たせています。ブルコッドが一匹ここに近づいてきたらその重みで勝手に木の板を破壊してくれるので、何匹も来るようなことがないって寸法です!」
胸を張りながらドヤ顔で解説をしてくれた。
一人で作ります宣言の時はかなり心配だったが、思ったより凄いトラップが出来ていたようだ。
必要以上の頭数を集めない工夫も素晴らしい。
「で、やってきたブルコッドはどう倒すんだ?あの木の板の下に落とし穴があるとか?」
「いえ。最後はタクヤさんの炎魔法でちょちょいと」
「……その考えだと、俺がずっとこのトラップを見張ってなくちゃいけないんだが」
「え、ダメなんですか?」
いやダメじゃないけど!確かにやってきた魔獣は俺の炎魔法で仕留めるって言ったけど!
来るかも分からない、見た目も知らない魔獣をただ座って待つのは暇だしちょっと怖い。
「まあ大丈夫ですって!タクヤさんは崖から生える枯死草を採取できたくらいに身体能力が良いんでしょう?ブルコッド程度なら突進されても避けれますよ」
ユニがフォローを入れてくれるが問題点はそこじゃないと言いたい。
まあ肉が食べたいと言ったのは俺だし、ここまで考えて作ってくれたトラップを無下にするわけにもいかない。
「分かったよ。ブルコッドとやらが来るまで待機しとくよ」
「ありがとうございます!じゃあ魔法陣を発動させたら、獲物が来るまで枯死草でも採取しときますね。私も身体能力にはちょっと自信があるんです」
そう言うと、枯死草の生えているスポットへと走っていった。
まあ、女神からもらった身体能力や魔法が有れば猪みたいな魔獣程度なんとかなるだろう。
地面にごろんと寝転がって空を眺めつつ、ブルコッドがやってくるのを待ったーー。
ーーのだが。
「……来ないんだけど」
「………こめんなひゃい」
あれから数時間、陽が傾くまで待ったのだがブルコッドどころか魔獣一匹来なかった。
ユニは申し訳なさからか泣いているが、まあ即席のトラップが一日で成功する方が珍しい。
手に持った枯死草を眺めながら。
「今夜も枯死草祭りだな」
「……はい」
明日こそは肉を取ろうと誓ったのだった。




