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枯れた自信

はなちゃん大惨敗の前触れ

須藤くんは、本当にこの一年頑張ってくれました。

本当にかわいそうな役回りばかりで、体重も減ったしストレスで拒食症間際まで行きました。


そんな中、新崎が休みの日に少ない時間でも、飛行機でアメリカへ行き須藤のケアをしてフォローし続けた1年間


新崎のフォローのおかげで、須藤は拒食にも鬱にもなりませんでした。

この一年で須藤は新崎に信頼感を高め、新崎も須藤を更に気にかけるようになりました。



「はなちゃん…仕事だよ」


今日ははなちゃんのアー写撮影だったが、はなちゃんのやる気のない表情にこちらも、今日は撮るべきではないのかもしれないと感じていた


子役には破格の豪勢な待機部屋は、子供が喜びそうなものは用意されず、ただ座り心地の良さそうなソファと老舗の茶菓子がレトロなテーブルに行儀よく並んでいた


ソファに背もたれながら、ぼーっと天井を見上げるのは目の前にいるのに気配が薄い幼女


整った顔は健在だが、以前のような猛々しさは微塵も感じられ無いのが、心の底から残念だ




まぁ、無理もない…無理もないと思う…



「はなちゃん…そろそろ気を取り直しな…もう『彼』には会うことは無いんだから」




俺の勝手だけど、確かな憶測…



はなちゃんは精神的に、『殺人鬼』に『負けた』



あの日…はなちゃんは、初めて『役』になりきれなかったんだ


見ていてヒシヒシと感じた



あの撮影期間は、自信に満ちたあの顔が、悲しいくらい歪んだ毎日だった…


日本での『ピアノ抗争曲』が上手く行き、思った以上にクランクアップが早く終わって…


全然進まなかったハリウッドでの撮影がようやく始まったのに、最初はずっとはなちゃんのペースに巻き込まれていたのに…



よりにもよって、なんで『あいつ』に会うことになったんだ…


あれのせいで、はなちゃんは…





「ねぇ、須藤さん」



抑揚の全くない呼びかけ



「わたし、もう辞めたい」



初めて、道野はな…『怪物』が瞳から闘志を消した






あぁ、こんな筈じゃなかったのに…








⭐︎



某局某日



「ほんまにいややわ」


「いやぁ〜!!カスベさん!!そこをなんとか!!」


「わい、ほんまに子役とか嫌いなんやって!

しかも!いまノリに乗ってる実力派子役ぅぅう?


ほんま人生舐めきってて話にならんわ!!」



「でも!カスベさん!本当にはなちゃんはヤバいんですって!

もう社会現象になるのも時間の問題ですって!!


去年撮影で行ってたアメリカでも、いろいろ問題起こしてニュースにも載ってましたけど、それさえも信者が出来た要因だとか、いろいろ凄いんですよ!」



「はぁ?子供が社会現象とかなんちゅー社会や!!

ロリコンの巣窟の間違いやないかーい!」



「お願いしますって!!絶対『怪物』VS『怪物』の対談なんて面白いに決まってます!!

視聴率も期待できますよ!!」




身を乗り出して大御所に詰め寄る、局のお偉い立場にいる男は全力で縋り付く



「けっ!!本当にテレビも安くなったもんやわ…

わいらの時代は、努力して努力してそんでも実力のある奴らに全部持ってかれるバトルロワイヤルみたいなもんやった


未だにやっすい給料で芸人続けてる奴もおる…実力も努力もしてるのにチャンスがなくて諦めた奴もぎょうさん見てきた!



若いってだけでチヤホヤされる子役とは訳が違うねん!!


舐めんなや!!わいらを!」




くわっ!!と威嚇するように歯茎を剥き出し怒鳴る大御所に、それでも反論する局のお偉い人



「カスベさんがイエスって言うまで、僕はここから退きませんよ!?」



この2人の攻防は結局あと2時間ほど続いて、結局のところ元々優しい性根をしていた大御所がその心意気に素気無く折れたのだ











そして、程なくして須藤の元へオファーが来た


『お笑い界の『怪物』VS子役界の『怪物』夢の対談』


初めてのバラエティーのオファーに、須藤はすぐには頷けなかった…が、事務所の意向で大物と共演出来るまたと無いチャンスと、須藤と部長である新崎の待ったの声を無視して共演は決まった






その日は、ちょうど…『ピアノ抗争曲』と『THE BEAST』の予告編第一弾が公開される日と重なったのは偶然か…



次の仕事の打ち合わせで立ち寄った事務所で須藤は、仕事以外は常にぼーっとしている道野はなの姿に、今日何度めかわからないため息をついて、腹を抑えて新崎を心配させた


「おい、ハジメ…大丈夫か?」


いつの間にか背後にいたのは、部長である新崎


「悟さん…」


親しげに下の名前を呼び合う様は、一年前の2人の関係では考えられないくらいの光景で、この一年で信頼関係が深いものになっているのがわかる、気遣うように須藤の肩に手を置く新崎は気の毒そうな顔をしていた



「ハジメ、無理するなよ…キツかったらはなちゃんの同行は俺が代わりに行くから」


「…いえ、俺が…いきます…まだ大丈夫ですから」



もともと線の薄かった須藤は、この一年でさらに痩せた


目の下には薄らとクマが出来て、唇を頻繁に噛むせいか荒れている



「……俺が諦めたら、それこそはなちゃんはダメになる…


悟さん…もう少し、俺にやらせて欲しい」


新崎は、グッと唇を噛み締めて何も言わずにただ須藤の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた




この一年で、誰が一番変わったか…という質問であれば、悪い意味で道野はな…と答えるだろうが、この一年で誰が一番苦労人だったか…と言われれば須藤だろう






「…これからだろ、対談の撮影の打ち合わせ」


「…はい、…あっちは敵意剥き出しって噂ですよ…」


「……やっぱり俺も着いていくよ」


「悟さんは、大事な会議があるでしょう?

もし何かあったら、帰ってきた時に話聞いてください…」


「…ハジメ……あぁ、待ってる」





新崎は心配そうに須藤を見つめ、須藤に抱っこされた無気力な道野はなを眉間に皺を寄せて悲しそうに眺めた







波乱が始まる幕開け…無気力な道野はな、死んだ目をした須藤


敵意剥き出しの大御所芸人、味方をしてくれない事務所





映画の予告編公開日まで、残り数週間…

映画公開まで後り10ヶ月…




時間は、待ってはくれない…。










はなちゃん以外、全員主要人物にモデルがいるのですが、命名センスがないため、いつも新登場する人達の名前に苦労してます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。面白かったです。余計な感想を書いてしまったかもしれませんが、流していただいて問題ありません。続きを楽しみにしております。 [気になる点] やはり須藤でしょうか。天…
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