強大な味方
お久しぶりの本編の投稿です!
少し短くなってしまいましたが、これからスパンを短く投稿していける様頑張りますね!
今回は、はなちゃん(本体)の不在中に、事務所もスポンサー(2回目の登場)も全面的に味方になる話です。
スポンサー様は、はなちゃんが犯罪者になってもお金と権力で握り潰してくれる人材なので、これからの活躍が大きいです。
「…は?エコノミークラス?」
国際郵便であるエアメールが事務所に届き、あちら側が手配する予定だった航空券の詳細が記載されたものが入っていた
記載された文字は、すべて英語表記であるが、座席の階級は明らかに『economy』の表記がある
「…舐めてんのか?」
いらっと頭に来たのは、芸能界では、ちょっとした小話があったりするからだ
それも、俺がまだ…『芸能界』にいた時…一度ハリウッドからの誘いがあった…その時…たまたま現場にいたハリウッドで撮影経験のある大御所に参考がてらに質問して聞いた話だ…ハリウッドからオファーが来た時、航空券の手配を先方がする際…
主役格で、期待されている時や敬われている場合…『ファーストクラス』を手配したりする…
普通にただの出演者としてならビジネスクラスの方が多いが…今回は『主演』で、ビジネスクラスでもないのは様子がおかしい
俺が聞いていた小話では…、この飛行機のグレードによって、現地に行った時の待遇が推し測れるというものだった
ファーストクラスやビジネスクラスであればあちらも、主役として『認めている』為、それ相応の対応はしてくれるだろうが…
エコノミークラスになると、また別の意味が含まれている事も…この業界ではあるのだ
日本で少し目立っているだけの演者を面白半分で起用して、現場に呼んだとしてもおざなりな対応に嘲笑の的になることも珍しくないと言われてる
それでも日本人特有の『控えめさ』で強く出れないのを良い事に、そこまで有名な俳優陣ではない限り、あちらもご機嫌とりはしない話は結構よく聞く…
この話をしてくれた大御所俳優は、どちらも体験していた、まだ有名になる前の日本で少し名が売れていた時にオファーされたハリウッドの…まぁB級映画の主演だった様で、その時にエコノミークラスで用意されたフライトで腰痛やら頭痛やらエコノミー症候群になりながらも向かった先では、粗悪な対応の酷い対応
そのせいか2回目のハリウッドではファーストクラスの好待遇に度肝を抜いたと笑っていた
その話を思い出だすと、今回はあちら側が『主役』として道野はなを呼んだはずなのに、この対応はいかがなものかと癪に触る
(うちの『怪物』をエコノミー症候群になんてさせる訳ないだろ)
確かに今までの俺だったら、先方の機嫌を損ねない様に素直にエコノミーに乗せていただろうが、今は違う
(『道野はな』は、これから世界に名を馳せる名女優になる…だからこそ、人に遜ったりしない様…威厳を損ねないように今のうちから『名女優』としての道を歩かせないといけない)
だから、今ここで舐められて自尊心を傷つけることなんてさせない…
「新崎さん…飛行機の手配なんですけど、やっぱりウチの事務に取ってもらっていいですか?」
近くで呑気にコーヒーメーカーで、カフェオレを作っていた新崎に後ろから声をかけると、新崎はスティックシュガーを3本持って振り返る
「あっちが用意してくれたんじゃなかったのか?」
何か問題でも発生したのか?と心配そうに言ってくる新崎に、俺は右手に持っていた航空券を掲げた
「…エコノミークラスの特等席に、『道野はな』を座らせられる訳ないじゃないですか」
にっこりと微笑んで言ってみせると、新崎は顔をぽかんとさせて、すぐに唇を尖らせた
「…まあ、ウチの看板にエコノミー慣れさせるわけにも行かないからな…よし、すぐファーストクラスで取ってもらえ…経費で全部落とすから」
スティックシュガーを持った手でGOサインを出す新崎
新崎の言葉にとりあえず安堵しつつ、先ほどから思っていたとをなんとなく聞いてみた
「…ところで、いつからそんな甘党になったんですか」
「…はなちゃんが何かやらかす度に砂糖の量が増えてくんだよなぁ」
遠い目をする新崎に眉を潜めて、午前中にもう一つの出演作の顔合わせで何かあったのか、察した
「また何か仕出かしたんですか?」
「まぁ、今までの奇行に比べたら可愛いもんなんだけどさ…
はなちゃん…出演者の大物俳優の何人か…ガチで敵に回したんだよね…」
ため息まじりに更にスティックシュガーを追加する新崎に、思わず頭痛がしてこめかみに手が伸びる
「まさか…その中の1人に海堂 真咲はいない…ですよね?」
声をかけるも、新崎は含みのはいった苦笑を浮かべたので、肩の力が抜けた
「…嘘だろ…流石に主演には喧嘩は売るなよ…」
海堂 真咲…前年度の日本アカデミー賞主演男優賞受賞…
現在の年齢は24歳で、6歳から子役としてデビューしているから18年の芸歴を持つベテランだ…国民的俳優の海堂は…どちらかというと薄い顔の日本人特有の細い目と低めの鼻だが…演じる役によってその顔を面白いくらい変化させる
元の顔は、整ってはいるが絶世の美男子というわけではない…だが設定上の絶世の美男の役を演じた時は、本当に彼がこの世の美を詰め合わせた美男に見えた程、彼は表現力の塊だった…
元々『ピアノ抗争曲』は前後編で、前編の主演は『道野はな』になってはいたが、後編の主演は決まっていなかった…だが、製作者側が早く作品を撮りたいとのことで、日本で今、1番の演技力である彼が選ばれた
今の廃れた日本の芸能界を担うのは、海堂 真咲がその一端を背負っていると言っても良い程だ
そんな大物に喧嘩を売れば、今後共演NGにされた時に有名作品に出演できなくなる可能性が高い
「で…はなちゃん、何したんですか」
新崎に意を決して尋ねると、新崎は糖度の高いカフェオレを啜り、本日数度目のため息をついて口を開いた
「それがさ…」
☆
「はなちゃん!!」
バタンッって音を立てながら須藤さんが休憩室に入ってきた
はな、良い子に台本読んでたから驚いちゃった!
須藤さんが、なんか早口で言ってるけど、難しいことはわかんない!
「なんで、海堂さんに『臭い』なんて言ったの!?」
焦った顔で須藤さんが聞いてきた!
「カイドウさんって?」
はな、そんな人わかんないなぁ
「午前中に顔合わせしたでしょ!『ピアノ抗争曲』の打ち合わせで!」
午前中?
あー!それならはなじゃない!はな、『代わって』たもん
「午前中は『ゆうとくん』に代わってたから、はなわかんない!」
須藤さんが面白い顔してる!
「『ゆうとくん』ね、耳も鼻もビンカンだから、そのカイドウさんって人、香水でもつけてたんじゃないかな?よくわかんないけど…『ゆうとくん』は香水とか強い匂いが苦手なんだって!」
だから、しょうがないよ!と笑顔をむける
須藤さん、「怪物め」って囁きながら俯いてたけど、何が怪物なんだろう?
「…そうか、それならしょうがないな…はなちゃんも『ゆうとくん』も悪くないもんな…
でもね、はなちゃん…カメラの前以外で『ゆうとくん』をあまり出さない事って出来るかな?」
須藤さんがそう言うと、なんか胸の中で『ゆうとくん』が文句言ってきた感じがした
「できるよ!でも『ゆうとくん』は不満みたい…どうしても出たいって言ったら代わっても良い?」
須藤さんは何か考える様に指先を唇に持っていった
「…うん、わかった…どうしてもの状態なら…代わっても良いよ」
須藤さんが良いよって!『ゆうとくん』!
嬉しい?え、まだ不満なの?
もう!わがままなんだから!そんなんだともう代わってあげないよ!
もう!わかったって!ピアノの前では代わってあげるから!
ちょっとは我慢してよね!
「あれ?須藤さん?」
いつの間にか須藤さん、出て行ったみたい!
はな、良い子だからまた台本読むね!
…だから、『ゆうとくん』うるさいよ!少しは静かにしてよね!
はなの言う事聞かないと、はなの中から『消しちゃうよ』!
☆
遮光のブラインドが、外の光を遮断している為…今の天気やら時刻やら…実感が湧かないこの空間で、私はiPadに移されていた複数の写真に目を移す
短い栗色の色素の薄い柔らかそうな髪に、つり目ガチの大きめな瞳に左右対象な黄金比であろうそのパーツの配置に…将来は大層な美人に成長するだろうと予感させるものがある
道野はな 職業 子役
選ばれる『子役』に必要なものはなにか…
子役なんて掃く程いる、使い捨て同然のこの時代に…勝ち残る為に必要な要素を持ち合わせている子供だけが『子役』になれる
大事な要素は三つだけ
一つは『物怖じしない強めのメンタル』
これは基礎中の基礎と言っても良い…
カメラを向けられて尻込みする子役なんて、使いものになるわけない…時間を喰われるだけで撮影もままならなくなるだろうから、ある程度メンタルが備わった子供しかオーディションで最終面接までまず行けないだろう、だからこそこれが第一条件
二つ、『扱いやすさ』
大人の注文を素直に聞いていかにオーダー通りに演技をするか…
聞き分けの良い子でないと、使う側の大人に反発し言うことを聞かないのならば、それはもう仕事にすらならない…これも大事な第二条件
三つ、『子供らしさ』
…笑われるかもしれないが、これが子役を目指す子供には、あまり備わってなかったりする…
それもそうだ…子供に『らしさ』を求めるなんて、備わってるのなんて当たり前のはずだ…
だからこそ…『歪んだ』子供らしさ…はこの界隈では一等を占めている
幼いながらに養成所で培われた、売れる子役と売れない子役の…『優劣』
親の圧力により備わった期待に応えなければいけないという『抑圧』…
子供は純粋で敏感だ…だからこそ、歳を重ねる度に、本来あったはずの『子供らしさ』が失われていく
小賢しく、大人に媚びる様な不安定な演技しか出来なくなる
『子供らしさ』はどれだけ『自然体』でいられるかが見られている…これが子役が『子供らしく』いられない原因だ
売れる子役は、7歳で芽が出る…
逆に7歳までに芽が出なければ…今後の活躍は期待は出来ない
そんな薄暗い芸能界だからこそ…異質なんだ
『道野はな』の存在は…
そう長々と報告してきたのは、道野はなと『契約』してから何度か様子を聞く為に『短期契約』した…有名でもない並の俳優…
道野はなと同じ作品に出演していた(と言っても絡みのないただの脇役だったそうだが)、芸歴だけは無駄に長く…数回は主演で演じたとも言っていた
まあ、興味がなかったから、道野はながいなければ、この先も名前も顔も知らなかっただろう
道野はなの話…噂は色々と聞いていた…
『天才』『鬼才』『化物』『狂人』
どれもこれも畏怖と尊敬の眼差しで『道野はな』は観察されていた…
だからこそ…興味のなかった芸能界に興味が出た
私の会社は世界規模に大きくなった…だからこそ、名を轟かせる為に幾つものスポンサーをしてきたし、会合にも参加している身で無知なのも投資者の立場的にまずい為、ある程度の芸能界の知識は入れてきたつもりだ…
しかし、興味がない物に対するその行為は、とても精神的にキツく、腹立しくもある
…たかが1本のドラマで、胸が痛んだのも初めてだった
投資する時は、誰よりも自社への利益を考えて慎重になっていた
はずだったのに
『本物』を見たら…無条件に、『投資』していた
噂や話を聞く限り、これから問題を起こしそうな因子だとわかっているはずなのに…かれこれ数十年は生きてきて、もう人生の折り返し地点をとうに過ぎてきている…そろそろ保身に移り、次世代に引き継ぎを任せても良いだろう…実際、つい先日まではそんな考えだった……それをしないのは…
…これまで生きてきた人生で感じたことのない胸の高揚感に、私は悟ったんだ
私の残りの人生は、この子を輝かせる為にあるのだと…
『この子がいれば…』
今まで見たことのない…革命が起こる
『きっと凄い所まで行ける』
あの子の纏う空気は、私とは比べ物にならないほど年季があった
まるで、自分よりも長く生きてきた年長者とでも言う様に
『あの子の目は…未来を見ていた』
だからこそ、私は投資する…
会社のためじゃない…自分の為だ
たとえ、あの子が人を殺したとしても…私は全財産注ぎ込んだとしても無罪にして見せよう
これが、私の出来る最大の『スポンサー』としての応援だ
ちょっと内容があっさりした話が続きます。
次回はピアノ抗争曲の初回撮影日なんですが、はなちゃんが結構クソガキ過ぎて書いててイライラしたので書き直してます。。。
今月中には投稿したいなっと思ってるので、気が向いたら見ていただけると嬉しいです。
 




