第二章 始動
ようやく第二章!!
最近は、文章力を上げる為に小説読むように心がけてます。
「ダブルオファー…ですか?」
新築特有の香りがする白い壁紙が眩しい空間は、アロマを焚いているのかゼラニウムの香りがした
目の前のメガネをかけた優しそうな面持ちの男の質問に、肯定の意味を示すよう頭を縦に振ると、とたんに渋い顔を浮かべた
「…しかも一つは海外…」
眉間に皺を寄せ、指先を唇に当てながら考える仕草に、少し驚いた
(…娘に対して、そこまで関心なんて持ち合わせていないと思っていたが)
思ったより、『父親』の顔をしていることに拍子抜けした
「…危なくは…ないですか?
アメリカなんて治安の悪い所…」
目も合わせず俯く男の額にはうっすらと汗が浮かんでいる
「大丈夫ですよ!現地のスタッフも、セキュリティーも万全な状態での撮影ですし、なにより常に周りには大人がいますから!一人になることなんてありえません!」
ニコニコと引き攣らないように人の良い笑顔を浮かべたが、男は俺の顔を見ずに、唇を噛んで渋っている
「…申し訳ないが、アメリカには行かせられない…、あの子を危ない目に遭わせたくはないんだ」
珍しく強気に意思表示する男に、少しイラッとした
(今まで、無関心だった癖に…何を今更…)
テーブルの下で親指のささくれを爪で剥く
じわっ、と微かに血が滲んだ為、すぐにいじるのを止めたが
「道野さん…ハリウッドですよ?…はなちゃんは…もう日本で収まる人材ではないって事です…道野さん、はなちゃんを応援するって言ったのは、貴方自身じゃないですか」
目尻をキュッと上げると、男は下唇を再度噛んだ
家に上がった時に感じたゼラニウムの香りは、既に鼻が慣れたのかなにも感じない
なにより、この匂いはあまり好きではないから、早くこの場を切り上げたかった
良い返事を貰えない焦燥感からか、少し強めな語彙で男に詰め寄る
目の前の男は、コーヒーカップを浮かばせ唇に触れようとしていた瞬間だった
「道野さん…娘さんが大事なのはわかります…ですがはなちゃんの未来のために…、一度…『手放して』あげてはくれませんか?」
ガチャン!!
テーブルの上にコーヒーカップが落下し、茶色い液体が白いテーブルの上に広がる
未だに熱いであろう液体は、あたりに飛び散り、大半がテーブルを流れ落ちて男の足に落ちていく
慌てて声を掛けようと身を乗り出したが、男の異変に気付き言葉が出なかった
男は目を見開き、先程とは比にならない尋常じゃないほどの汗を額に浮かばせ、動揺を隠せないように頭を抱えて、苦しそうに顔を歪めた男は、普段の温厚そうな雰囲気を一切取り去って、メガネ越しに鋭い目でコチラを睨みつけた
その鋭い目が、少しだけ道野はなと似ている事に、気付く
男は唇を捲り、歯茎が見えるほど大きく口を開き咆哮した
「ふざっけるなっ、あの子を…二度とッ『離さないと』誓ったんだッ!!」
フーッフーッ、と息を荒くさせる男の急変に、返す言葉が見つからない
バン!!と机に叩きつけられた手のひらは、割れたカップの破片を潰して、うっすらと赤い血が茶色の液体と混ざったのを視線の端で捉える
「み、道野さん?」
異様な空気は、重く
張り巡らされた糸がブチブチと千切れていくのを感じたのは、目の前の男が震え始めからだ
「…っ?…ぁ、なんだ…?いまの…」
息が整うにつれて勢いを急激になくした男は、次はぽかんと間抜けな顔をして、自分の言動を理解出来ていないのか、しどろもどろと自身の両手を見つめている
「あ、はは…ごめんな、須藤くん…なんか最近おかしいんだ…自分が自分じゃないみたいで…仕事のし過ぎかな?…あはは」
親子揃って『普通』ではない様子に、奇妙な念を抱くが、とりあえず愛想笑いを浮かべ、気にしてない風を装った
「仕事のし過ぎですよ、きっと…ちゃんと休まないと、はなちゃんも心配しますよ」
近くにあったティッシュで割れた破片とコーヒーを大雑把に拭き取り、端にまとめながら声を掛けると、男はぶつぶつと何か話始めた
「…俺、あれが好きなんですよ…はなの出ていたドラマの…」
ドラマ…と聞いて、すぐに思い浮かんだのは『雪と蝶』で、頭を抱えて消え入る声で話す男に耳を傾ける
「…生意気で、横暴で…」
(…『るるか』の方か…?)
「結局一人になって、でもプライドだけは高くて意地を張って…子供らしくわがままで…家族に愛されて育ったあの子の役を…」
「あ、あの、道野さん?」
いったい『誰』の話をしているのか理解が出来なかった
『るるか』かと思ったが、『るるか』は家族に愛されてはいないし…
「『小学生』になって、こんなき大きくなったなんて、ドラマを見て初めて知ったんだ」
(小学生…?)
更に意味のわからない話をぶつぶつと話す男に、恐怖に似たような感情が沸き出る
「あ、あの、道野さん…いったい、何の話をしているんですか?小学生の役なんて…はなちゃん演じた事ないですし…」
すっ、と顔を上げた男の顔は、顔面蒼白で目の下には隈が出来ていた
この短時間で、この変貌は…本当に何が起きたのか頭が追いつかない
「…『らん子』のことだよ、須藤くん…、君がマネージャーになって初めて取ってきた仕事…、あの子が演じた初めての『嫌な』役だ」
『らん子』と、名前を出され、記憶の断片を探しても見あたる事のない名前に首を逸らす
「…道野さん、『らん子』なんて役…はなちゃんが演じた事なんて一度もありませんよ…
いったい、どうしたんですか?貴方らしくもない…」
畏怖の心地で男を見遣ると、男は生気が抜けた顔を一瞬したかと思えば、何か言葉を発した
「 」
「え?」
聞き取れず、もう一度お願いするよう声を掛けようとした
が、
「……あれ?なんでカップが割れてるんだ…?」
顔を逸らした一瞬のうちに、目の前にいる男は、『戻って』いた
まるで先程のやりとりが無かったかのように飄々とした態度にゾッとする
信じられないものを見るような目つきをしていたからか、男は俺を見て不思議そうに首を傾げた
「あれ?須藤くん?どうしたんだ…?」
ポカンと、口を開けてる姿が間抜けだと思っていたが、今の俺よりはマシだろう
「い、いえ」
なんとか声を出して応じるも、気が気ではなかった
「あ、そういえば、娘のオファーの件だったな!
全部、君たちに一任するから、好きなように娘を使ってくれ!
今まで通り外泊許可も出すから、娘のことは頼んだよ」
「は?え?」
先程とは打って変わって、掌を返すように全く別の回答に戸惑いを隠せない…隠せる訳がない
(…なんだよ、この人…さすがに怖えよ…)
二重人格かと疑いたくもなる言動に、白い目を向けたくなる気持ちをぐっと堪え、意見を変えられないように、すぐさまカバンの中の書類を引っ張り出す
「それでは、この未成年同意書と他の誓約書に署名をお願いします」
ボールペンを渡す指が震えてしまったが、『いつも通り』ヘラヘラと笑う男はなんの迷いもなく署名していく
その反応とは裏腹に書いている字は、以前見たものよりも力が入っていて震えているせいかガタガタの輪郭を描き…綺麗とはお世辞にも言えなかった
「…はい!書けたよ」
穏やかそうに笑顔を浮かべる男にお礼を言うよりも先に手が出てしまい、書いてもらった書類を奪い取るように受け取り急いでファルに仕舞い込む
「…ありがとうございます…それでは、はなちゃんのパスポートが出来次第、渡米する予定ではありますが、こちらでの撮影もありますので、月に数回は帰国出来るかと思います…
他の詳しい説明は、後日報告しに来ますので…どうぞ宜しく…」
他に質問はないか、と声を掛けるも、男は返事の代わりに首をよこに振った
同意書にサインももらい、もうこの家にいる理由もなくなったので少し強引ではあるが仕事があると言って、帰ることを伝えると、男は笑顔で玄関まで送ると言って来た
玄関で、一言二言会話を交わし、ドアを押し開く
それでは…と会釈をし、背を向けるが
先程からずっと頭の隅で気になっていたことが足の動きを止めて、口を無意識に動かしいていた
「…道野さん…『らん子』って…誰ですか?」
「…え?」
「先程、はなちゃんが出ているドラマで好きな作品…だと先程言っていたじゃないですか…」
口角がピクピクして顔が引き攣っているのがわかる
男は情けなさそうに顔をくしゃっとさせて、申し訳なさそうに言ってきた
「ごめん、なんの話かな?…それに俺、はなの出ているドラマとか、まだ見たことないんだよね」
仕事が忙しくて…と頬をかきながら言う男に、俺は、苦笑いで誤魔化すしかなかった
「それでは、失礼します」
再度、会釈をしてドアを閉める
ドアが完全に閉まるまで、1秒もかからなかったはずなのに、この時間が今日1日で一番長く感じた
ガチャン
「…さすが、『親子』だな…どっちも気持ち悪い」
今まで、感じたことのない…男と道野はなの共通点に『親子』
の繋がりがあることを再認識する
そして鞄に入った書類を見て、思わず取り繕う必要のない笑みが溢れた
「…英語、勉強しなおさないとな…」
同意書のある今、もう道野はなの障害になるものは何もない
これから、この1年間…
道野はなは二つの映画を同時期に撮影する
道野はなを日本中に…いや、世界に知らしめる為に、俺自身も会社も協力を惜しまない
「さ、戦場に戻りますか…」
腕時計を確認すると、思っていた以上に時間の進みが遅く、いまだに早い時間ではあった
今、この時間だったら『はなちゃん』は、『ピアノ抗争曲』の初顔合わせ中だろう
新崎が今日は代わりに付き添いしてくれているし、何かあったら連絡も来るだろうから、俺は事務所に戻る事にした
気温は低く、暑くはないのに太陽の日差しが頬に熱を持たせる
「…はあ」
ため息の理由が、なんであるかなんて…ありすぎて考えることを放棄した
逆行小話
実は、はなちゃんパパも前回の記憶をなんとなく持ち合わせているような、いないような設定です。
もし記憶が蘇ったとしても、本当に結末の最後らへんにしようと思っているので、今後も今まで通り『無関心風』な父親にしていきます。




