3.ハーレムはどこだ
「ずっと、おかしいな、思てたことがあんねんけど」とソウタは切り出した。
「何やねん」
「いや、出会いが、なさすぎひん?」
「家と仕事の往復やしな。第一、金があれへんやん」とイワオが言うと、ソウタはほら来たとばかりに指を差した。
「それやねん。おかしいやんけ。異世界やで? なんで一年目の社会人みたいなこと言うてんねん」
「現実そんなもんなんちゃう?」
「せやから、『現実とは何か』っちゅう話やねん」
「怖っ。『今我々が現実と認識している事象は、水槽の中の脳が見ている幻に過ぎないのではないか』みたいなこと? アカン宗教やってもうてんちゃうん」
「怖い怖い怖い! なんやねんお前! 何やその思想!」
「いや、お前やんけ」
「言うてへんわ、そんな話。いや、ちゃうねんて。お前の言う『現実』て、『異世界なんて、作り話』っていう世界の『現実』やんけ。今、実際俺ら異世界に来てもうてんねんから、そういう『現実』のレギュレーションが変わってもうてるやん。せやったら、お前、異世界は異世界なりの『現実』ってもんがあるんちゃうんか。『チートスキルでハーレム無双』って現実があってもええんちゃうんかって話やねん」
「ちょっと……熱が凄すぎて……」
「何引いてもうてんねん」
「いやお前、ついこないだ『早よ、一人前の冒険者になります!』みたいなこと言うてたやん。何女にウツツ抜かそうとしてんねん。舌の根も乾かんうちに。怖いわ。人間の欲深さが怖い」
「せやったらお前、彼女要らんねんな。俺がエルフの女の子とキャッキャしながら冒険に次ぐ冒険を繰り広げている時に、お前は棍棒担いだオッサンと薬草採りに行くねんな」
「それはちゃうやん」
「何がちゃうねん」
「逆に棍棒担いだオッサンの立場になって考えてみろや。何で俺と薬草採りにいかなあかんねん」
「お前、よう、その視点に立ったなあ。共感能力が吹奏楽部のクラリネット吹いてる女の子ばりやわ。てかそんなん別にええねん。彼女が要るのか要らんのかっちゅう話やろがい」
「それは普通に要るやろ」
「せやろが。やっと話が進むわい。異世界で、女の子と仲良くなるいうたら、アレやん。ピンチを助ける的なヤツやん。せやからな、お前、盗賊に扮して女の子に襲いかかってくれや。で、俺が助けるねん。もうそれやったら、後はとんとん拍子や。本で読んだから間違いあれへん」
「嫌やわ」
「何でやねん」
「なんで、そんな『泣いた赤鬼』みたいなことせなあかんねん」
「いや、やって欲しいのは青鬼の方やねん」
「キャスティングの話ちゃうわ。よう聞く話やけど、実際やること想像したら、めっちゃ卑劣やんけ」
ソウタはその時になって初めて、自分の作戦をよくよく想像したらしく、考え込んで低く唸った。
「せやな。卑劣やな。これやめるわ。せやけど、お前対案を出せや」
「せやな。対案も出さんと、否定ばっかりすんのはアカンな」イワオも腕を組んで、低く唸る。「ハロワで相談しよか」
「せやな」
2人は家のドアを開けた。
「てか、クラリネットてどれやねん」
「縦笛や」
「それリコーダーとちゃうんかい」
「もうええわ」
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「ここは、『転職神殿』です」とハロワのお姉さん(受付の事務員)は言った。「結婚相談所ではないんですよ」
彼女も可愛らしいお姉さんではある。
「いや、結婚とか気い早いわ。まだ遊びたいやん」とソウタは訂正した。
「そういうことじゃなくて……」
「俺ら相談する人とかいてへんねん。シスター、女の子紹介してえや」イワオも説得にかかる。
「ガラが悪い……」と困惑しながらも、お姉さんは腕を組んで考え込んだ。親切で面倒見のいい女だ。「冒険者ギルドに行ってはいかがでしょうか」
「そんなん、いっつも行ってるわ。オッサンしかおれへんやん」
「女性の冒険者も結構いますよ。魔術系の職種は女性の方が適性の高い人材が多いですから」
「エルフとか、おんの?」
「ほんと、男の人ってエルフ好きですよね」とお姉さんは呆れたように言う。「あとは、猫人とか」
「けっとしー?」
「獣人ですよ。猫の」
「おお……その手があったな」イワオが言うと、ソウタは顔をしかめた。
「俺アカンわ。どこまでが猫か気になって気い散るねん」
「会うたことあるみたいに言うやん」
「いや、猫て水アカンやん。風呂とか入られへんかったらどうする? ノミとか付いてるかもしれへんで」
「お前、絶対それ本人の前で言うなよ」
「いや、言わんけど。手とかどないやねん。肉球とかあるタイプの手やったら、もの掴まれへんやん」
「それはもう、前足やな」
「せやねん。心配やわ」
「私の知っている猫人の女の子は、我々ヒュムと同じような手をしていましたけど……」
「いや、ちょっと待って。今なんて?」とイワオが遮る。
「ですから、我々と同じような手を……」
「いや、その我々のこと……」
「ヒュム?」
「ほら、また新しいの出てきよったで。これがイヤやねん」とイワオはうんざりしたように言った。「用語が多すぎんねん。もう頭に入れへんわ」
「ちょっとやんけ。人間のこと、『ヒュム』って言うねんて。そんくらい覚えろや。今まで俺らが学校で覚えさせられてきたことに比べたら、大したことあれへんやん。愛新覚羅溥儀とか」
「中大兄皇子とか?」
「マルクス・アウレリウス・アントニヌスとか」
「ゴータマ・シッダールタとか」
「ちょっとずつ弱いなあ」
「でもまあ、俺らの世界もそう考えると、大概やな」
「しかもそういう知識のほとんどが、生きて行くのに使われへんっちゅうな」
「将来何の仕事やるか分かれへんから、色々教えてくれはんねやろ」
「『愛新覚羅溥儀』を使う仕事てなんやねん」
「中国のバスガイドさんとか?」
「誰がなんねん。そんなもんに」
「言うてお前、異世界で戦士になってもうてるわけやし、何があるか分からへんで」
「そう考えると、生まれた時から『白魔道士』とか決まっとんのって、効率的かもせえへんな」
「せやけど、嫌なヤツやったらどないすんねん。俺白魔道士イヤやわ」
「そういう時のために、『転職神殿』があんねやろ」ソウタはハロワのお姉さんに同意を求めた。
彼女は我が意を得たりといわんばかりにうなずく。
「そうです。ここは『転職神殿』ですからね。結婚相談所ではないのです」
ここまでお読み頂きありがとうございます。
匿名をカサに着て言うわけですが、私は個人的に「まあ、この辺で手を打っておくか」という恋愛ばかりしてきたためか、ヒロインを描くのがとても苦手だと思います。何かにつけ、もっとよく考えて生きるべきだったと反省しています。
ハーレムものを書く人の、色んな種類のヒロインを無尽蔵に生み出せる能力はすごいですよね。
私自身、仮に自分が異世界に転移したらモテまくりたいので、その欲求を素直に吐き出した上で、現実そうはいかないという展開を笑いに出来ないかと思って書いています。
宜しければ、ご意見などお聞かせください。
今後とも宜しくお願い致します。