噂話も程々に
翌日、俺たちは情報を集めることにした。
聞けば最近、戻橋周辺でよく『何か』を見かけるみたいだ。
目撃情報はバラバラだが、共通して言えることは普通の人にもぼんやりと見えたという事だ。
妖には見ることができる奴とそうでない奴がいるが、見える奴にははっきり見える。
しかし今回はぼんやりと『何か』が見える程度。俺たちからすれば、なんとも中途半端な奴だしか思えない。
「うーむ、目撃情報的が壊滅的にバラバラやな。」
「共通する部分もあるじゃない。ほら、全体的に小さいとか。」
それより、ぼんやり見えるという方が引っかかる。
ぼんやり見えるという事は存在が不安定だということだ。
この世に確かに存在する妖たちがそのような見え方はしない、ではこの世で存在が不安定な物とは何か。
「俺は、霊魂か何かだと思う。」
魂だけの存在というのは、この世において非常に不安定だ。
故に盂蘭盆という特殊な時にしか戻ってくることはできず、見えてもぼんやりとしか見えない。
それに、霊というのは妖が見える見えないに関わらず見えることがある。
恐らく2人が避けてたであろう結論を言った瞬間、2人の表情は凍り付いた。
「あー・・・できればその予想はしたくなかったなぁ・・・」
「共通点からどうしてもそういう結論になる。」
「で、どうするん?俺はできれば行きたくないんやけど。」
やはり気になるし、そろそろ活動をしたいというのもある。
だが、相手が霊だった場合は非常にマズい。
奴らは妖以上に危険なものが多く、こちらに危害を加えてくる可能性が高い。
「前に一度危ない目に合いかけたからね・・・」
「そ、それにさ、妖達の観察という俺たちの目的に反してるやろ?やめとくべきや。」
奈古は以前の出来事が軽いトラウマになってるようで、匡司はどうしても行きたくないらしく必死に訴えかけてくる。
「とはいうものの、前の酒呑童子とか完全に霊魂だったじゃないか。」
「あれは事故や。」
「まあ知ってて行くのと、行った後で知ったのでは全く違うよね」
ここまで頑なに断る2人は初めて見た気がする。
さすがに無理強いするのはよくないが、やはり正体は気になってしまう。
「依光君ってさ、物理的に痛い目に合わないとわからないところあるよね。」
「いつか戻れないところまで行って自滅するタイプやね。」
「失礼な、引き際くらいわかってるつもりだ。」
言い返したが、そういう問題じゃないと呆れられてしまった。
そこまで言われるとこっちが駄々を捏ねてるように思えてしまう。
「わかった、今回ばかりは折れよう。その代わり、とっておきのネタを探して来いよ?」
「おう、まかせとけ。」
「じゃあ、今日はこのまま解散ということでいいよね?」
2人に別れを告げて、家路につく。
探求部としての活動は確かにやめにしたが、俺の欲求は収まらない。
今は午後6時前、幸いもうすぐ逢魔時だ。戻り橋に少し寄ってから帰ろう。危険な事など、起こりはしないさ。