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京は怪異日和につき  作者: 神者拓
二日目・一条戻橋
6/10

夜歩き

夏は怪談話がよく話のネタに上がってくる。

身の毛もよだつ怖い話をすることで、暑さを忘れようという魂胆だ。

ついでに肝試しも人気で、どこぞの寺が、だのあそこの墓地が、だのといった話をしばしば耳にする。

もちろん、何かが出るというのは本当だ。ただ普通の人は見えないから怪異であるとしか認識できない。

妖たちは、そんな人達を驚かせて楽しんでいる。意外にも妖は人を襲うということはしない、驚かすだけで満足しているらしい。


ただ、勝手に楽しんでる分にはいいのだが、巻き込むのだけはやめて欲しいものである。

俺たちの活動は怪異を探求すること。だから、夏になるとあっちこっちから怪談話の依頼が来る。

大江山に行ってからもう一週間、ずっと怪談話をしている。そろそろ自分たちの活動もしたいものだ・・・


「夏の夜ってやっぱり楽しいよね。」


京の街の夏は非常に蒸し暑く、昼夜問わず纏わりつくような暑さが不快さを感じさせる。

奈古は楽しいというが、どこが楽しめるのか甚だ疑問だ。


「この暑さを楽しめるあたり、俺はあんたを尊敬する。」


「いやまぁ、確かに暑いけど。ほら、夏の夜ってなんか神秘的じゃない?」


蒸し暑さが不気味さを醸し出しているが、これを神秘的と言って良いのだろうか。

夏の夜は妖たちも活発になる。妖は神秘的というか霊的なものだが。

霊的といえば幽霊は夏の夜くらいしか見かけない。他の妖と違い、霊魂が現世に帰ってきたときに現れるのが幽霊だ。

つい最近会った酒呑童子も盂蘭盆で帰ってきたと言っていたが、盂蘭盆がある夏には霊魂がよく帰ってくるらしい。

おかげで、夜になるとそこら中で幽霊を見かける。特に害はないため気にならないのだが。

逆に害のある幽霊は、季節に関わらず現れる。恨み辛みを持ち、物や場所に憑いた地縛霊のようなものだ。まあ、それらは滅多に見かけないのだが。


「暑ぃ・・・なあ、川縁を歩こうや・・・そっちの方が少しは涼しいやろ・・・」


匡司はすでに暑さで参ってしまっている。

ここ烏丸通には川どころか水辺はないが、一本道を移ると堀川がある。

夜の堀川近くはできるならば通りたくないのだが・・・


「堀川沿いを歩くか、このまま暑い道を帰るか、どっちがいい?」


「うげっ、よりにもよって堀川かい」


俺たちが堀川を嫌がるのには理由がある。

それは、一条戻橋と呼ばれる橋の存在だ。

様々な曰く付きの橋、この世とあの世を繋ぐともいわれている橋。

いい噂もあれば悪い噂もある、もちろんこの噂というのは霊的なものだ。

ゆえに、夜中出歩くときは余程の用がなければ近づく者はいない。

特にこんな真夏の夜には何があるかわかったものではない。


「さっさと帰った方が吉やな、ほら急ぐで」


「さっきまで暑がってたのはどうしたのやら・・・」


「まあいいさ、俺もできれば近づきたくない」


歩く速度を上げて、家路を急ぐ。

その時、ふと何かが目の前の道を通っていった。

月明りが反射しているのか、ほんのり白く光る何かが。


「珍しいな、人か?」


「妖じゃない?こんな真夜中にこのあたりをうろつく人なんかいないよ」


「人型の妖かもしれんな、それなら珍しいもんでもないやろ」


こちらに害がないのなら、妖でも気にしないのだが。

しかし、あの道は・・・


「一条通・・・」


嫌な道で嫌な物を見てしまった。

戻橋に続く道、あそこをまっすぐ行けば戻橋へとたどり着く。

あまりいい予感はしない、振り返らずにさっさと帰るべきだ。

全員が同じ思いだったのだろう、俺たちは何も言わずにさっさとその場所を通り過ぎることにした。



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