表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

廃工場

 

「何度も言うが、今日は連中の様子見ってだけだからな。手は出すなよ」


「へいへい」


「はーい」



 本当にわかっているのだろうか……



 オレ達が今居る場所は、目の前に海が広がる廃工場跡地の敷地内にある倉庫前。

 昨日の会議に出た、ギャング達が集う場所がこの廃工場の中。

 オレ達は現在その工場がある敷地の倉庫前から、中に潜むギャング達が出てくる所を見張っている状態。



 何故こんな事になったかと言うと、会議での議題にあったドンの記憶を戻すためだ。

 ドンの脳に眠る記憶を呼び戻すに、視覚からは戦場の場面。嗅覚からは血の臭い。

 これが一番ドンの脳を刺激すると、考えた答えになるらしい。


 そしてその最悪な場に選ばれた先が、プロベンツァーノファミリーの縄張りで暴れるギャング集団。

 この者達は5ヶ月前に突如現れ徐々に人数を増やすこと総勢、二百名にもなった。


 このギャング集団が行っているのは、金のありそうな人間や弱い者を片っ端から拐って襲い金品を奪う。最低な連中だ。

 警察は何をしてるんだと言いたくなるが、この者達を警官が迂闊に手を出せない理由がある。


 それはギャングのリーダーの父親が、警察庁のお偉いさんの息子なんだとか。

 詳しくは組織としても調べては無いらしいが、その親父と問題が起こり手が出せないそうだ。



 ドンにはこのギャング集団は、地面を這う蟻と同じ存在。

 全く見向きもしない。興味もない。

 そんな集団が自分の縄張りで好き放題しようが、ドンにとってはどうでも良い事だった。

 それに追い払おうと思えば、簡単にそれが出来る。

 ドンが一言『邪魔』とさえ告げれば、この者達は綺麗に消された事だろう。



 だが今回は決して、消しに来た訳ではない。

 それでもこの存在を知って、元警官としては放っておく事はしたくはない。

 いや、ある意味この廃工場からはギャング達を追い出し消すのが目的ではあるが、死を意味させるものではない。


 捕まえる。ギャング達を。

 そして警察に引き渡す。


 それが今回オレの立てた計画だ。


 カルロ達が言うには──本当は血祭りにしてギャング達を始末し、その場面をドンに見せて脳に刺激したかったみたいだがそんな事は避けたい。

 それになりより、オレには初めからマフィアとしての記憶なんて物は無い。


 どんなに悲惨な光景を見ようが、体験しようが、以前のドンにはなれない──そうこの時までは思っていた。




 時刻は午前、十時過ぎ。


 倉庫前でギャング達が出てくるのを見張るのは、オレとフェルモとエルモのたった三人。

 この人数で200人を捕らえる訳ではない。

 今日はあくまでも様子見だ。

 直接証拠を押さえた上でしか、捕まえる訳にはいかないだろう。


 しかしこれにはあまり気乗りしない様子の、フェルモとエルモ。

 オレの計画『捕まえて警察に渡す』が気に入らないようだ。

 捕まえるなんてのは面倒な上に、生きたまま引き渡す事に抵抗を覚える。

 なにより捕まえるよりも殺ってしまった方が早い、と言われた時には目眩がした。


 それにドンに刺激を与える要素が無ければ、わざわざ外に身を出し危険に晒す必要が無いと言う。

 であればオレは頂点に立つ側としての我が儘を使えば良いと考えたのだ。


 我が儘と言っても、ただ自分が直接そのギャングを捕らえるから強力しろ。と、命令しただけではあるが。


 ただこれだけでは凄みが無いので、ここはイメージするドンらしく声を低め「オレの縄張りを無断で汚す奴らを直接捕らえる。文句があんのか」と、言ってみたところあっさりカルロからは許可が降りた。

 命令ともなれば流石に言うことを聞かざる終えなかったようだ。



 因みにだが、カルロはドンが本来こなす筈だった仕事を全て一人で任されている為に、一緒には行動できないようだ。


 そういった理由からしてオレ達三人は、廃工場を約30分は眺め冒頭の会話をしていた。



「誰も出てきませんね……つまんない」



 エルモは工場から視線を外し、倉庫の壁に背を預けて地面の石を蹴って遊び始める。

 静かで何も起きない現状にエルモは退屈のようだ。



「もしも、だけどよ。あんたに……ごほん、ドンに危害が及ぶ場合はそいつらを始末するが…………しますけど、良いか……ですか?」


「……殺しは絶対に駄目だ。それと、無理して敬語は使わなくて良い」



 どうやらフェルモは敬語使いが苦手のようだ。

 その言葉使いに思わずくすりと笑ってしまえば、二人は顔を見合わせキョトンとしてしまう。



「じゃあこのままでいくが、なんつーか……記憶が無いとはいえ、丸くなりすぎじゃないのか?」


「まるで別人が入り込んじゃったみたいですよね」


「……そ、そうか?」



 危うく、そりゃあオレが別人だからだ! と叫んでしまうところだったが、そんな事は今は口が裂けても言えん。



「おっかなくねぇ、てのは興奮しないな」


「ぼくは以前のように毎日ドンの鋭い視線を浴びてゾクゾクしたいのに」



なにやら耳を疑いたくなる言葉が飛び込んでは来たが、ここは無視をして廃工場を見張る事に専念した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ