第三話 クラウソラス
激闘の末、倒れきった敵を見たのも束の間。
自身も倒れこみ夢を見る。
でもこの夢は見せられている物ではなく振り返りだった。
地平まで続く黒。
それが今俺が立っている場所だ。
でも不思議とこの場所について考察したり焦ったりしない。
そもそも違和感を感じないし、そのまま今の状況を受け入れている。
俺の名前は八雲龍馬。
ROADでは如月と名乗ってプレイしている。
このゲームは良い。
自由だし面白い。それにとてつもないワクワクに包まれる。
まああくまでゲームがゲームとして成り立っていた時までの話だけどね。
パーティーを組むのもありだし一人で攻略するのもあり。
ギルドを結成して現実世界の企業みたいに振舞うこともできる。
いろんな遊び方があるんだ。草原や町、廃墟や砂漠はもちろんのこと深海や標高10000m近くの神々の山とかとにかくいろんな場所でイベントが開催され、モンスターが出現して冒険できる。
最近は地球ー火星間も制限ありだが攻略マップに追加された。
プログラミングと工学に詳しい人はゲーム内のアイテムを使って独自の武器を開発することもある。
まあこれはレア中のレアだからほとんどのプレイヤーのプレイスタイルには当てはまらないかな。
優秀な性能で人気が出そうな独自武器は実際に運営会社が使用権を払って公式武器になった。噂では1万ガイアが支払われたそうな。
その一つがこの魔装填ボーガンランス【スピカ】だ。
イベント配布武具だが面白い性能で魔法弾と物理刺突の二つの攻撃を一つの武器で行うことができる。
両手がふさがる代わりに近距離と中距離で臨機応変に戦えるし魔法耐性と物理耐性の敵に対して攻撃を使い分けながら戦える。
このように自由度が圧倒的なんだ。こんなゲーム見たことが無い。
それもこれもなんだかすごいコンピューターが膨大な演算を助けてくれているかららしいけどそんなことはあまり気にしなかった。
このゲームはARとVRモードがあってどちらでも遊べるしもちろんステータスも相互に関連付けされている。
俺は室内で遊ぶVRの方が多かったかな。
でも街に出てみるとARモードに夢中になっている人が多くてその時プレイしていなくても高揚感が沸き上がった。
今となっては恐怖が日に日に増していくROADだが当時はもう本当にこのゲームが楽しくて楽しくてしょうがなかった。
俺のプレイスタイルはもっぱらソロ。
昔はよく共闘していたりその場でパーティーを組んだりしたんだがどうも俺には合わないらしい。ゲーム内のチャット(文字・音声両方)もほぼ不参加。別に誰かと遊ぶのが嫌いってわけではない。
ただ、疲れる時やわずらわしさを感じてしまう時があってあれがどうしてもだめだった。
あまりにも強敵が出現したらたまに同じような境遇のプレイヤーとその場限りの共闘はする。チャットを使用するのは事前の作戦会議くらいか。
まあ向こうも俺と同じようにソロ戦だから挨拶をかわしたらまた別々の道を行く。イベントの上位に昔一度だけ一緒に戦ったプレイヤーが名を連ねているのはモチベーションが上がる。
そんなわけでソロで攻略しているときついクエストも出てくる。特に開始されたばかりのクエストで複数人で戦う前提のボス相手とかだ。
でも自分で考えたスキルと攻撃と動きの組み合わせでそれを倒す時の達成感は凄い。それに、「もうソロ攻略したんですか!?」って通りすがりの人に驚かれるのも照れ臭いが悪くない。
そうやって難しいクエストを攻略し、貴重なアイテムを大量に獲得し、称号も80を超えたときに作成できるのが【妖刀ー八岐大蛇ー】。
八つ首の邪竜から落ちるアイテムや天壌の畑にのみ生えている花、ヴィーナス海溝で採掘できる水晶などを合成しなければいけないが苦労した分性能も最高だった。
通常攻撃は剣系統最高クラスの威力とクリティカル発生率・倍率補正だしSPが溜まった時に発動できるスキルは単体攻撃も複数攻撃も可能。
そこそこの剣耐性の敵ならごり押しで突破できる攻撃力だった。これだけの威力ならスピードも落ちるはずなんだが遅いと感じることもなかった。
SP回収も良い。
あ、今更だがSPって言うのは通常攻撃を加えることで貯まるスキル発動のためのゲージだ。SPを使うことで武器のスキルを使用可能だしあらかじめ設定している補助スキルも使うことができる。
俺が設定しているのはシールド、物理攻撃バフ+1~3、物理防御バフ+1~3、魔法攻撃バフ+1~3、魔法防御バフ+1~3、速度回避etc
とまあシールドと身体能力向上バフは大体セットしている。それにあまり使いたくないが奥の手も……
これらは1回の戦闘で使用回数の上限があるからタイミングを見極めなくてはならない。特にシールドは使いどころを間違えると後々不利になってしまうし出し惜しみしていても意味がない。
後は緊急脱出スキルってのもあるんだけどこれは必要ないかなって思って外していたんだ。その矢先にあの大鬼なんだからまいっちゃうよ。
あの戦闘で八岐大蛇は壊れてしまった。戦闘時は生存に必死だったから意識していなかったが喪失感は強くなっている。
多分、この喪失感はまだまだ強くなるだろう。
代わりに取り出したのは片手剣の【クラウソラス】。
実はこれって凄いものなんだぜ。
β版参加者のランキング報酬なんだ。
まあβ版は参加者が今と比べてずーっと少なかったからってのもランキング報酬を取れた理由でもある。
その後、口コミとプレイ共有システムや各種メディアの評判で話題沸騰。
正規版の発売日はとんでもないことになっていた。生産が追い付けないってもんじゃないのは連日ニュースを見ていれば分かった。
クラスソラスはβ版でいくつかあったイベントのクライマックス、魔獣討伐イベントで討伐ポイント2位の人に与えられる報酬だった。
バランスに優れているし変幻自在な戦い方もできる。ただ、狙っていたものじゃなかったんだ。
1位のプレイヤーに与えられる「レーヴァテイン」が欲しかった。
今なおトップ級の武器で燃え盛る美しさと恐怖を兼ね備える炎を纏う剣だ。
ずっと自分はまだ本気出していない、本気を出したら凄いんだって無意識に思いながら過ごしてきた。
ゲームは好きだったし面白さに対してプレイ人口が少なかったROADβ版なら俺も頂点に立てるって思っていたんだ。
そして順調に途中まではトップを走っていたんだが抜かされてしまった。
「がーべら」と名乗るプレイヤーがケルベロスと鵺と大魔獣ベヒーモス、挙句は神獣ユニコーンまで立て続けに討伐したんだ。
当時の俺はケルベロスはまあ何とかなる。
でもベヒーモスは分からない。ユニコーンはギルド討伐前提でそれも上級者数人がかりでやっと倒せるはずなのにがーべらはソロで討伐したという。
俺だったらあの時クリアは……
だからクラスソラスをもらったが素直に喜べないのも事実だった。
昔は強かったが今は第一線から外れたって言い訳を自分にしてクラウソラスの進化の可能性も捨ててしばらく使っていなかった。
でもこの剣のおかげで大鬼を倒せた。しばらくはまたこの剣で戦うことになるだろう。
ところで気になるのはあの時のあの炎の飛ぶ斬撃。あれは見間違いなんかじゃない。レーヴァテインから放たれたものだ。
ということはあそこにいたのは……
いけない。
意識が揺らいできた。というかあまり気にしていなかった俺がここに居る場所は?夢?
五感からの情報をだんだんと受け取ることが出来た。
なんだろう。この体勢は横になっているのかな。頬が温かいし柔らかい。それになんというかいい匂いがして心地いい。
一瞬目覚めそうになったが安心感を確信して俺はもう一度深い眠りに就いた。
あなたのためにやってきた。
でも違った。
自分のためでもあった。我儘もあった。
だから離れてしまった。
でもこうしてまた会えた。