守るべき人
体の動きを含めてでも、早急にどうにか伝えなければならないようでした。
そうでなければ、彼女にこの不安な心が乗り移ってしまって、僕たちの信頼が揺らぎそうに思われたのです。
そんなことでどうこうなるものでもないのでしょうが、これもまた、病とも呼べよう不安の仕業であるように僕には考えられたものですから、どうしたって君にこれはうつせませんでした。
君を不安にさせてしまうのも嫌ですし、君を不安がらせて平気でいられる強い心の僕ではないからです。
もし君が僕を疑ったとしたらば、疑わせてしまうような僕は、自らを全力で戒めなければ気が済みません。
そうでありながら、戒めに耐えられる僕ではありませんから、途中で逃げ出してしまうに決まっているのです。
そうして弱い僕が極められていくのに決まっているのです。
更なる僕の不安の原因となることも、僕本人、わからないでもありませんでした。
「答えのわかりきった質問をしてしまったせいで、君を不快にさせてしまっていましたね。申し訳ございません。上の空になっていたところはありますが、昨晩の話についてのことではないのですよ」
僕に可能な精一杯の微笑みで、そっと嘘を吐くのでした。
僕は君を愛しています。この気持ちに嘘はありません。同じように、君も僕を愛してくれているのでしょう。それでしたら、僕のライバルなどいようはずもありません。
そうなのでした。そうなのでした。
ですが僕はライバルが誰なのかと、意味のない質問をしました。
一途に僕を愛してくれている妻に、僕の他に選ぶ可能性がある人物がいると疑っている、そんな質問とも取れました。
質問したことについて後悔するでもなく、今でも不安を持っている僕を、僕は許せそうにありませんでした。
愛おしい我が妻を傷付けられて、怒らないでいられる夫があるものでしょうか。
愛しているのです。
男の性として、それがどのような男であったとて、妻が構わぬと言っても過剰と自ら感じ取られる以上のことを、その相手に罰として与えないではいられないものでしょう。
狂っていましょうが、愛とはそういったものなのです。
妻を傷付けたというよりかは、妻の傷を抉ったとでも言うような、決して許されないことをした男を、僕は許せるはずがないのです。
「……愛しています」
最初からそうとだけ言っていられなかったことで、自分を責めるのでした。
責められて然るべきことを、僕はしていました。
それだのに、責める人が僕しかいないということは、辛くてならないことでした。