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愛ゆえの不安


 僕には、いつまで経っても愛おしい、本当に愛らしい妻がありました。

 好きなのですから、愛らしく思えているものなのかもしれませんが、こうもまで数十年を寄り添って、尚も愛らしく思えるのは、素晴らしく有り難いことであるように思えるのです。

 それは妻を心から愛していなければ出来ないことでしょう。


 愛しておりますし、愛されているとも思います。

 僕は妻を信じておりますから、どうしたって、疑うことなど出来ない訳ではあるのですけれど、疑問に思ってしまったのはどうしようもないでしょう?

 ふと、考えてしまったのです。


 君を愛しているのは、誰なのでしょうか?


 小説家というのは、ほとんどが心を病んだ人であるのです。

 勝手にまるで僕が作家代表のような口を利きますのは、また違っているとは思うのですけれど、僕の知っている人の中に、小説家で真面な精神を持った人などおりませんでした。


 そういう訳で、考えるばかりが仕事の僕は、それもネガティブなことを考えるばかりが仕事の僕には、安心をしたままで信頼を置いておけるものではないのです。

 小説だって、ろくでなしの話やら、裏切りの話などいくらだってあるのですから、もしかしたらネガティブな本を読み過ぎたのかもしれません。

 妻を愛していますのに、僕は不安なのでした。


 ある日、不安になった僕は、いつものごとく夕餉を運んでくれた妻を、つい呼び止めてしまいました。

 不安でならなかった、もう堪らなかったのです。

「誰が君を愛しているのですか?」

 問い掛けてから、失礼な問いであったと気が付きます。


 僕のことを知ってくれている人ですから、それで憤慨する妻ではないのですが、そこがまた愛らしく思う気持ちもありながら、申し訳なく思ってもしまうのです。

 こうもまで慣れてくれるまでに、どれほど僕は妻を傷付けたものでしょうか、と。

 彼女はいつだって僕の隣で、文句の一つも言わずに支えてくれるものですが、僕なんぞとずっと一緒にいまして、何ら傷付かないであるはずなどないのです。


 取り繕うのも不器用な僕には難しく、笑ってしまう他なかったのです。

「あはっ、僕も君を愛していますよ」

 笑ってしまった所為で、何か可笑しなことを言っているかのようになってしまう、まるで愉快なことであるかのように思えてしまう、それがよろしくないのですよ。

 印象として悪く感じられてしまうことを、僕はわかっているのですよ。


 ここで何を繋げようかというのも、迷った挙句に、彼女の反応で間違ってしまったことを知りました。

「愛してはいます」

 考えてみれば、簡単なことでありましょう。

 愛してはいますと言うのなら、他に何があると言うのでしょう。



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