書いてみたら?
2週にいちどの図書館の他に、ラインでも繋がった4人はとても身近な存在になりました。月日は過ぎ、私達は中学生になり、莉那と香織とは学区外のままですが仲良くやっています。
ある時図書館で玲が突然に言い出しました。
「つぶちゃんも、飯村も岸本も本が好きでしょ?」
「うん。」
「で、たまに面白い本無いねとか言ってるじゃん?」
「うん。」
「自分で面白いの書いちゃおうかなぁとか思っちゃったりしないわけ?」
「・・・・・・。」
突然の玲の話の内容に沈黙が訪れ、私は急に頭の中を電流が流れるような衝撃を受けました。
「玲がスッゴく良いこと言った!!」
私はそこが図書館の館内であることを忘れ、椅子から立ちあがり大声で言いました。
「しーっ、ここ図書館だから静かに。とりあえず移動しよう。」
香織の提案で談話室に移動して話を続けました。
「だから自分が面白いと思うお話を書いてみるんだよ。」
「それ、いいね。」
莉那と香織も乗り気です。
「で、2週間毎にみんなでここで回し読みするとか。」
「それいい!でも、玲はお話なんて書けるの?」
「いや、僕は書くとは言ってないよ3人でかいたら?って話。僕は漫画コーナーの読破に忙しいし。」
「あっそ。でも、玲の提案にしては珍しくいい事言ったね。」
「本当だよ。やるじゃん吉井。じゃぁさ、今から目の前の100均行かない?あそこでノーとか原稿用紙買おうよ。小説書くのに必要じゃん。」
「そうだね。行こう。」
莉那の提案で、図書館の目の前にある100均に行くことにしました。店内を見て回ると文具コーナーにたくさんのノートとノートや文具に半ば埋もれるようにして置いてある原稿用紙が目に留まりました。
「20枚で100円かぁ。」
「これがいいんじゃない?ノートタイプの原稿用紙。散らばらないし。」
「あっ、いいね。表紙もチェックで可愛いし。」
3人でお揃いのノートタイプの原稿用紙とシャープペンシルを買い、図書館に戻って談話室で白紙のノートを広げました。
「何書こうか?」
「やっぱりラブストーリーかなぁ?」
「そうだよね?でも、私はファンタジーが書いてみたいかな?とびっきり可愛い魔女の女の子がヒロインなの。」
「あっ、それ香織っぽいね。じゃぁ、私は殺人事件とか?」
「えっ、それ本気?」
「うん。大嫌いな学年主任を宙吊りにする。」
「それ殺人じゃないじゃん。」
「そうだね。殺人とか考えたら怖くなった。吊るす位がちょうどいいよ。あいつ高所恐怖症らしいし。」
「そうなんだ。知らなかったよ。」
莉那の冗談めかした話に香織が大笑いしている。
「莉那ってば、本当に可笑しい。それよりまどかは?どんなストーリーにするの?」
「そうだなぁ。」
「ヒロインは地味な女子高生で、美容室でアルバイトをしてて、そこのスタッフに恋をして、それを応援してくれる見習い美容師の男の子がヘアメイクしてくれてスッゴく綺麗になっちゃって、両思いになるんだけど、見習い美容師の男の子はその女子高生に恋してた的な話とか。」
「うわぁ。それ、胸キュンストーリーじゃん。面白そう。よくそういうの思い浮かぶね。」
「うん、すごくいいストーリーだと思う。」
莉那と香織に誉められて満更でもなくなった私は、原稿用紙ノートにサラサラと大まかな流れを書き出しました。書いているうちに不思議なことにストーリーが面白いようにもくもくと頭に浮かんで来ました。書いて没頭していつの間にか時間を忘れ、気がついたら玲に呼ばれていました。
「つぶちゃん、岸本と飯村も、もうそろそろ帰る時間だよ。」
「うん。」
「うわぁ、私寝ちゃったよ。しかも見てヨダレ。」
莉那のノートを見ると白紙で端っこが少し濡れていました。香織は苦笑して
「私もそんなに書けなかった。3ページ位。まどかはすごいね。凄い集中して書いてた。すぐ書き終わっちゃうんじゃない?」
「うん、すっごい書けた。でもね、すぐには書き終わらないと思う。なんか。」
「大作になりそうなんだ?」
「そうかも。」
「あははっ、頑張れ!2週間後見せてね。」
「うん、バイバイ。」
「バイバイ。」
自転車を漕いでいる間も頭の中は物語でいっぱいで途中、玲に話しかけられたりしたのですが、全然上の空でした。