保健室で真実を。
渡されたハーブティを飲んで、こんなはずじゃなかったとウジウジと考えていたらいつの間にか寝入ってしまっていた。
「つぶちゃんが目を覚ますかも知れないからそろそろ僕は帰ります。」
「そう?じゃぁ、さようなら。」
「さようなら。つぶちゃんの事、宜しくお願いします。」
玲と先生のはっきりとした声で覚めた。
夢じゃない。
今のは絶対に玲の声だ。
「起きるまで居たらいいのに。」
「そうだよ。」
続いて耳に届いた莉那と香織の声で確信に変わる。
私は後ろめたさで起きることが出来なくなった。
パタンっとドアが閉まる音が室内に響いてからどれくらい時間がたっただろう。私はベット上で寝返りをうったりしながらたっぷりと時間を潰し、そろそろと思うタイミングで声を発した。
「うーん。」
「あっ、起きたみたい。」
シャっとカーテンを開けて中を覗かれる。
薄く目を開けると莉那と目が合った。
「起きた?」
「うん。」
「大丈夫?」
「うん。」
短いやり取りが繰り返され、莉那の隣からひょっこりと香織が顔を覗かせた
「まどか、心配したよ。頭が痛いんだって?」
「うん。でも、もう大丈夫だと思う。ごめんね二人に心配かけて。」
本当は、玲も来ていた事を知っているけれど、知らない振りをした。その方が場が丸く収まる気がしたから。けれど、それを聞いた莉那の表情が強張る。
「もうひとり居たんだけどね。」
冷たく言葉を投げ掛けて来る。
「もう、莉那止めておきなって。まどかは体調が悪いんだから。」
香織がフォローするように話し先生も顔を覗かせる。
「だいぶ寝たみたいだから頭痛も取れたかしらね?」
「はい。先生、ありがとうございました。」
「なら良かった。たっぷり寝かせてあげた代わりにお願いがあるんだけどいいかしら?」
「何ですか?」
「お留守番お願いしたいのよ。30分位。お願い出来る?」
「いいですよ。」
私ではなく莉那が答えた。
先生は気にする様子もなく「じゃぁ、宜しくね。」と去って行った。保健室に残された私達3人の間に重苦しい空気が漂う。
「まどか、さっきの態度はないんじゃないの?」
沈黙を破ったのは莉那だった。
「・・・・・・。」
私は何も答えられず俯いて黙りこむ。
「まどかさ、吉井の気持ち考えたことあるの?吉井がまどかの事をどう思ってるかとか?」
「・・・・・・。」
何も答えられずただ俯いてベッドの上掛けを強く握りしめた。
「何で黙ってんのよ。何とか言いなよ!」
「莉那、本当にもうやめなって。」
私の態度に腹をたてた莉那声を荒げそれを香織が押し止める。
「香織は黙ってて。私、もう全部言うから。黙って居られない。」
莉那のあまりの剣幕に香織は黙って引き下がった。
「私は、まどかの事を大親友だと思ってる。もちろん香織の事も。すごく、すごく大事。私達が出会った日の事を覚えてる?」
私は黙って頷いた。
「あの日、私達が出会ったのは偶然なんかじゃなかったんだよ。」
「えっ?」
私は思わず言葉が漏れ出した。偶然じゃない?じゃぁ、何故どうして?言葉にならない疑問を莉那に向けた視線で訴える。
「頼まれたの。吉井に。僕の大好きな女の子の友達になってあげて欲しいって。その子は本にばっかり夢中で友達を作ることを忘れちゃってるからって。すごく良い子だからきっと君らとも仲良くなれると思う。今度図書館で会わせたいから偶然会ったことにして会って欲しいって。吉井はね、ずっとずっと小さい頃からまどかの事が一途に好きなんだよ。だからずっとまどかの事を見守っていたの。まどかはそれに全然気付いてなかったの?」
何も答えずにただ莉那の顔を見つめ続ける私に莉那は話を続ける。
「吉井が陸上を始めたのはまどかの頑張ってる姿を見たからなんだよ。小説を頑張って書き上げて出版まで漕ぎ着けて本当につぶちゃんはすごいって。だから僕も頑張って陸上を始めて自分に自信が持てるようになったら告白するって。つぶちゃんは相当鈍いからきっと驚くだろうなって。でも、僕が自信を持てる僕になれたらつぶちゃんも気付いてくれるだろうって。そう言ってた。なのにまどかはそんな吉井の努力の芽を潰そうとしたんだよ。分かる?吉井の気持ちに気付いてなかったとしても酷いよ!」
『つぶちゃんは僕のお姫様。』
ずっとずっと幼い頃、玲に言われた言葉が甦る。そして幼い頃、玲は私の王子様だった。そう言えばふたりで将来の約束もした。そんな気持ち私はどこかに置いてきてしまったけれど、玲はずっと心に潜めて居てくれたんだろうか。
頭の中が真っ白になって目の前が霞む。
気が付いたら涙が頬を伝っていた。
その姿をみて莉那が謝ってきた。
「言い過ぎたかな?ごめん。でも黙って居られなくて。私にとってはみんなが大切な仲間だから。その中で誰かが傷付くのは耐えられない。」
「ごめん。でもありがとう。私もみんなが大切。だから今は少し時間が欲しい。頭冷やして考えを整理したいって言うか。何かごめん。うまく言えない。」
「大丈夫だよ。気にしないで。私達、もう行くから。何があっても友達なんだからね。」
ずっと黙っていた香織が優しく肩に触れて囁いた。
「莉那、行こう。」
そういうとふたりは連れ立って保健室を後にした。
私はただベッドに座り閉められたカーテンを見詰めていた。
どれくらいそうしていたのか突然カーテンが開き保健の先生が顔を覗かせた。
「どう?大丈夫?お友達は帰ったの?」
「はい。」
「そう。たまには休むことも良いことだからね。例えそれがズルだとしても。」
保健の先生が悪戯っぽく笑って言う。
バレていたんだ。
「幸い明日から土曜日でお休みよ。良かったじゃない。ゆっくりしなさい。いいお友達もいるみたいだし。」
「はい、ありがとうございます。失礼しました。」
お礼の言葉を残して保健室を後にした。