受験と卒業と中学の集大成。
夏休み中に放課後の美容室を仕上げる!!
と掲げた目標は脆くも崩れ去り、仕上がったのは9月の下旬。受験勉強を本格的に開始したのは10月に入ってからでした。完全なスロースターターです。でも、小説を書き上げたという達成感で若干ハイになっていた私は今なら何でも出来るって言うくらい脳が活性化していました。来る日も来る日も教科書と参考書を開き寝てるんだか起きてるんだか分からないような時間を過ごしながら受験日を迎えました。
「おはよう。まどか大丈夫?眠れた?」
「おはよう。うん、大丈夫。寝れたと思う。」
「寝れたと思うって。まどか、本当に大丈夫なのか?目が覚めるようにパパが珈琲を淹れてあげたよ。それからママのカツサンド。ただのカツサンドじゃないぞ!勝負に勝つ!!の勝つサンドだからな。さ、ここに座って。マッサージもしてあげよう。」
パパの過剰なエスコートに身を任せ、テーブルに座り珈琲を飲み、カツサンドならぬ『勝つサンド』を食べました。
玄関を出ると玲にバッタリ。
「おはよう、つぶちゃん頑張ろうね。」
「うん、頑張ろう。」
それだけ言葉を交わすとお互い送りの車に乗り込みました。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
呪文のように心の中で唱え車中を過ごしました。
送ってくれるママは静かに車を走らせます。
スッと車が止まり受験を受ける緑が丘高校に到着。
「まどか、気負わないで受けてらっしゃい。ママはあなたが頑張ってきたこと知ってるから。きっと大丈夫。」
「ありがとう。行ってきます。」
ママのきっと大丈夫の言葉を胸にたくさんの受験生が飲み込まれて行く門をくぐりました。ここが緑が丘高校。校舎はとても大きく綺麗なものでした。玄関でシューズに履き替え長い長い廊下を渡り教室に入ります。席につき鞄を広げ受験票と鉛筆と消しゴムを取り出し試験に備えます。暫くして試験官がやって来て厳かに答案用紙を配りました。紙の擦れる音が止み、静寂の中で響く試験官の歩き回るコツコツという靴音が止んだとき
「では、試験を始めます。」
試験官のひと声でさらさらと鉛筆が紙を滑る音がかすかに教室に広がりました。私はその音に飲み込まれるように問題を解いていきました。途中、トイレや昼食休憩を挟み、私は今までの自分の努力を答案用紙にぶつけました。この教室に居る誰かでなく自分自身との戦いです。
「では、これをもって試験は全て終了です。」
試験官の声で我に返った時、軽いめまいを覚えました。
フラフラと教室を出て迎えの車に乗り込み、自宅に帰るとベッドに倒れ込み、そこから爆睡して目覚めたのは翌日の昼。重い頭で起き上がりリビングに降りていきました。
「おはよう。ずいぶん寝たわね。」
「うん、おはよう。すごく寝た。」
「まどかの大好きなフレンチトーストを焼きましたよ。さぁどうぞ。お疲れさまでした。」
「ありがとう。」
ママは昨日の試験の事は何も聞かずにテーブルにフレンチトーストとサラダとオレンジジュースを出してくれました。『お疲れさまでした』のひと言が全てを集約しているんだと思います。
それから脱け殻のような日々を過ごし卒業式を迎えました。特別な感慨もなく迎えた卒業式。卒業証書を授与され、席に戻るとき父兄席を見たらパパとママが泣いていました。私達はクラスへ戻り担任の先生の答辞を聞きお開きになりました。クラスメイト達のきゃぁきゃぁ言う喧騒を抜けて廊下に出ると、後ろからバタバタと走りよってくる音と共に玲の声が響きました。
「おーい。つぶちゃん、写真一緒に撮ろうよ。」
振り返ると玲が手に大きめなカメラを持って息を切らして立っていました。
「これね、チェキって言うんだ。すぐに写真が出てくるんだよ。校舎の入り口の卒業看板の前で撮ろうよ。」
「いいよ。」
二人で移動してママにお願いして写真を撮りました。
ジジジっという機械音と共に写真が吐き出されてきます。
「はい、つぶちゃんの分。もう1枚撮ってもらえますか?」
2枚の写真を撮ると玲と二人で分けました。
手にした写真を見てぼんやりとこれが私の中学の集大成だなと思いました。中川さんの言うとおり狭い、狭い世界。まわりに一切の関心を持たなかった私は、同じ中学で玲以外の友人は誰一人居なかったのです。明日は合格発表。新しい生活が決まる日。
私はこれから自分の世界を広げていけるだろうか?
そんな思いが頭をよぎっていきました。




