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条件。


ドキドキしながら中川さんを部屋に通すと、中川さんはゆっくり部屋を見渡し「スッキリしたお部屋ね。」と言った。


私はただ中川さんを見つめ返し小首を傾げた。ジェスチャーで疑問を投げ掛けた私の行動を理解した中川さんが答えてくれる。


「もっとこう、本に溢れたお部屋を想像していたものだから。あんなに素敵な小説を書き上げる位だからたくさんの本に囲まれた生活をしているのかと。私の勝手な思い込みね。」


うっすらと笑みを浮かべる中川さん。


「いえ、本は読むんですけど、図書館で借りて読んでるんです。以前は沢山あった本も数冊残して処分してしまって」


図書館に通うことを覚えた私は、思い入れのある本だけを残し、あらかたの本を処分し、一時期の本で埋まりそうになっていた部屋を生活空間として復活させていた。


「まぁ、出版社泣かせだこと。でもまぁいいわ。座らせて頂戴ね。」


そう言うと部屋に置いてあるテーブルの前のいちばん座り心地のいいクッションに腰を下ろした。私は仕方なく玲が訪ねてきた時に座るぺたんこのクッションに慌てて腰を下ろす。


「単刀直入に言うわね、つぶらさんの小説はまだ出版出来ません。」


「えっ?」


「ちょっと手直しをしなければいけないの。もうすぐ夏休みにはいるでしょう?」


「はい。」


「その夏休みを全て改稿、書き直しって事ね。それに当てて貰いたいの。」


「・・・・・・。」


返答が出来ず言葉に詰まる。


「正しい反応だわ。」


中川さんが笑う。不意に真顔になって言葉を続ける。


「でも、貴女は本を出版したいのでしょう?」


コクりと頷く。


「だったら、甘えは無し。夏休みは改稿で潰れると思って頂戴。それからね、私はこれから貴女の自由を奪うわ。」


「自由を奪う?」


少し怖くなって中川さんとの距離を空ける。反対に中川さんは前のめりに距離を詰めてきた。


「さっき、お父様、お母様と話させて頂いたの。作家として活動したいなら高校生になってからですって。そして何より学業優先でとお話を頂いてるわ。まぁ、当たり前よね?学生の本分は学業な訳だから。まずは受験、成功させなくてはね。進路の希望はあるの?」


「いえ、まだ。」


「そう、ならなるべく偏差値の高い共学へ行きなさい。緑が丘高校とかいいんじゃない?」


「緑が丘高校?!」


中川さんがサラリと口にした高校名は県内有数の進学校だ。県内でも三本の指に入る。


「自信がない?」


「考えてもみませんでした。無理せず行けるところに行って小説と学業を両立させようと。」


「貴女、甘いわねぇ。そんなんじゃいけないわ。何事も全力でやって頂戴。」


「でも、それじゃ勉強ばかりで小説が。」


「じゃぁ、小説なんて書かなければいいじゃない。やめてしまいなさいよ。小説家は貴女が考えているような簡単な職業じゃないわ。無難な学校に行って片手間に?ふざけるんじゃないわよ。小説は忙しかろうがなんだろうが書くのが好きだという気持ちがあって書けるものだと私は思うの。貴女が緑が丘高校に進学して小説が書けなくなるというなら貴方の才能なんてそこまでのものってことよ。」


小説が好き。


そうだ。私は書くことが楽しくて放課後の美容室を書き上げた。今は目先の出版という大きなイベントに目が眩んでそれしか見えなくなっている。現に私は高校生活の片手間に小説を書こうと思っていた。でも、それの何がいけないのだろう?


「余裕を持って小説を書きたい。それじゃいけませんか?」


私は、思うままを口にした。中川さんは強くて冷たい視線を向けてくる。


「ちょっと背伸びして恋愛小説が書けたからって生意気な子。言わせてもらうわ。貴方の恋愛小説は本当に良く書けてる。セオリー通りにね。よく小説を読み込んでる人が書く文章だわ。でもそれじゃ、いつかは壁にぶち当たる。貴女、恋愛経験ないでしょう?」


「・・・・・・。」


ぐうの音も出なかった。


「若い貴女には経験が必要なの。いろんな経験をした上で小説にいかして欲しい。努力する事だって大事な経験なの。」


「・・・・・・。」


「黙ってるって事は逃げ出すって事なのかしら?まぁいいわ。素敵な作家を見つけたと思ったけど諦めます。さようなら。」


「待ってください!! やります! やらせてください!!条件も受け入れます。」


部屋を出ようとしていた中川さんはクルリと向きを代えて戻ってきた。私の目の前で手のひらを差し出し


「スマートフォンを出して。」


あまりの勢いに持っていたスマートフォンを差し出してしまう。



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