出版したい。
その後も私の書いた小説はランキングを上り続け、信じられないことに1位を獲得しました。これには4人とも感激して図書館で会ったときにまた祝杯を上げました。
「まどか、本当にすごいね。」
「うん、びっくりだよ。」
その後、ランキングは落ち着きましたが、閲覧者はどんどん増えて行きました。こうなると少し怖いくらいです。数日放置し改めてログインするとメッセージが届いていました。開けてみると
新鋭出版 中川です。と記してあり、何だろう?と不思議に思い読み進めると、『放課後の美容室を本として出版しませんか?』という誘いでした。慌てて閉じ、グループラインにメッセージを送りました。
『玲、莉那、香織、大変な事になったよ。』
『何?どうしたの?』
『放課後の美容室、出版しないかって新鋭出版の中川って人からメッセージが来た!!』
『えーっ。本当に?』
『うん、でもいたずらかも・・・・・・。』
『とにかくメッセージ送ってみたら?』
『うん。またラインするね。』
みんなに背中を押され、新鋭出版の中川と名乗る人物にメッセージを返しました。
『はじめまして。放課後の美容室の作者のです。メッセージ読みました。突然のことで驚いています。』
『驚かせてしまって申し訳ありません。改めまして新鋭出版の中川葉子と申します。この度、つぶらさんのお書きになられた放課後の美容室を読んでとても感銘を受け、世に広めたいと思いました。つぶらさんの作品はネットの中に閉じ込めて置くのはとても勿体ないです。是非ウチから出版してみませんんか?』
サイトに載せるために使っているニックネームのつぶらを呼ばれ何となくくすぐったい感じでした。このメッセージが嘘や冷やかしや詐欺で無いのなら大変なことです。私は慎重にメッセージの返信を送りました。
『私の書いた放課後の美容室を誉めてくださりありがとうございます。出版しませんかとのお誘いはとても嬉しいのですが、私は未成年ですしお金もありません。それでも出版出来ますか?』
30分ほどの間を置いて中川さんからの返信がありました。
『つぶらさんは未成年でいらっしゃいましたか。ある程度予測はしておりましたが、出版に差し当たりましてはご両親の承諾が必要になります。それと出版にあたって金銭の負担は一切必要ありませんが改稿といってまどかさんにほんの少し原稿の書き直しのお願いをすることがあるかもしれません。大切なお話になるのでここからはつぶらさんのご両親を交えてしっかりお話ししたいと考えております。こちらの電話番号を載せておきますのでいつでもご両親から折り返しが頂ければと考えております。宜しくお願い致します。090-××××-××××』
返信されてきたメッセージを見て本当なんだと思いました。同時に両親の承諾が必要って事はパパとママに知らせなければいけないということです。パパには内緒にしていたし、ママには打ち明けてはいたけれど、ネットに公開していることまでは知らせていませんでした。私はしばらく考えスマートフォンを持ってリビングに降りて行きました。リビングではママが洗濯物にアイロンをかけています。私はママの隣に座り込み暫く作業を眺めていました。
「何?まどかどうしたの?」
いつもと違う雰囲気を感じ取ったのか手を止めてママが話しかけてきます。私は一層強くスマートフォンを握りしめ、思いきって打ち明けました。
「ママ、私さ小説を書いてたじゃない?」
「うん。」
「あれがね、結構自信作でさ。」
「うん。」
「友達にも好評だったからネットにも載せたの。」
「ネット?」
「そう、インターネット。で、そこでもたくさんの人が読んでくれて人気が出てランキングとか乗れたんだけど、急にね、出版社の人からメッセージが来て出版しませんかって言うの。で、それには両親の承諾も必要なんだって。」
ママは完全に手を止め、アイロンのコンセントを引き、体勢を変え私ときちんと視線が合う形で座り直しました。
「まどかは出版してもらいたいの?」
「えっ?」
「だから、まどかは自分の小説を出版してもらいたいの?って聞いてるの。」
「う、うん・・・・・・。」
「世の中には悪い大人も居ると思うの。まどかに連絡をくれた出版の人がそうとは限らないけれど、そういう詐欺事件だってあるのよ。」
「それは大丈夫だと思う。連絡をくれた人、中川葉子さんって言うんだけど出版にお金はかからないって言ってた。ただ、書き直しが必要になるかも知れないけどって。でも、なんにしても両親の承諾が必要みたいなの。連絡先も教えてくれた。」
握っていたスマートフォンの画面を操作し、中川さんから送られてきたメッセージ画面をママに渡す。ママはメッセージを確認したのち
「今夜、パパに相談してみましょ。それとそれまでの間スマートフォンはママが預からせてもらう。ネット小説のページ教えて頂戴。」
私はママから渡されたスマートフォンを操作し、放課後の美容室のページを開いてママに渡した。黙って受け取ったママはそのままソファーに移動して静かにページを読み進めて行く。何だか居心地が悪くて玲の家に行くことを告げるとママはあっさり了承してくれた。
ピンポーン。
インターホンのボタンを押すと玲がすぐにモニター画面に映った。
「つぶちゃん、僕これから行こうと思ってたんだよ。でも、たまには僕んちもいいね。待ってて。」
がちゃりと扉が開いて玲が飛び出してきました。
「つぶちゃん、いらっしゃい。上がって。」
「おじゃまします。」
「あら、まどかちゃんいらっしゃい。後で玲の部屋におやつ持っていくわね。」
柔らかな笑顔をたたえた玲のママが優しく迎え入れてくれる。玲とふたり、玲の部屋に移動した。
「で、どうだった?出版のお話。」
気になって仕方がないとばかりに部屋のドアを閉めた途端、玲が話し出す。
「今、ママがチェックしてる。スマートフォン取り上げられちゃった。」
「ええっ、それは不便だねぇ。」
「うん。」
「心配するといけないから飯村と岸本にも知らせておくね。」
「うん。玲、ありがとう。」
不安な気持ちを紛らわすために玲の部屋で時間を潰し、夕方自宅に帰りました。