奇跡じゃなくて結果。
その日の夜、パパのおやすみのラインに珍しく返信を返して眠りに就きました。体が深く沈むような深い深い眠り。私は大きな仕事をなし得たような達成感で満たされて居たのだと思います。
翌朝、朝ごはんの時間になっても起きてこない私をママが心配して起こしに来ました。
「まどか、日曜だからって何時まで寝てるの?」
「ああっ、ごめんなさい。寝すぎた。」
時計を確認すると10時近くになっていてさすがに驚いて飛び起きました。寝癖のついたままの頭でテーブルに座り出されたトーストを齧っていると、ピンポーンという呼び鈴の音と共に玲の声が響いてきました。
「つぶちゃ~ん、居るの?」
私は食事を中断して玄関の扉を開けました。
「居るよ。」
玲は私の格好を足の方から見上げて、頭で視線を止めると
「すごい頭だね。」
と呟きました。
「さようなら。」
頭に来て開けた扉をまた閉めると表からドンドン叩き
「つぶちゃん、ごめん。違うんだよ。みんな心配してる。つぶちゃんと連絡がつかないから。だから僕が様子を見に来たんだ。」
あっと思い出しました。昨日の夜、スマートフォンのバッテリーの残量が少なかったのに充電せず寝てしまったのです。だから目覚ましも鳴らなくて寝過ごしたんだと思い当たりました。私は再び扉を開け玲を家に通し、朝食の続きに取りかかりました。
「つぶちゃん、ご飯中だったんだ。ごめんね。」
「いいよ。別に。」
黙々とトーストを齧る私を見て玲が気まずそうにでも、黙っていられないとばかりに自分のスマートフォンを取り出しました。
サッと操作すると画面をこちらに向けてきます。そこには日刊ランキングと表示されていて3位の所に放課後の美容室と記されていました。私は食べるのを止め、玲からスマートフォンを取り上げるとまじまじと画面を凝視しました。私の後ろに回ってきた玲が画面を確認して
「うわぁ。また上がってる。つぶちゃんあのね、朝からつぶちゃんの書いた放課後の美容室がランキングに載っていて飯村も岸本もずっとつぶちゃんに連絡してたんだよ。既読も付かないし、電話も繋がらないって僕に連絡してきて。だから僕が様子を見に来たんだ。」
「そうなの? ごめん。」
謝りながらも心ここに有らずで実感のないままスマートフォンの画面に見入っていました。ランキング3位。あり得ません。私は夢なんじゃないかと疑い部屋に戻り、ベッドに投げ捨てられたスマートフォンを拾い上げ充電しながら電源を入れました。先ずはライン、玲の言う通り莉那と香織からメッセージが入っていました。二人に謝りのメッセージを入れてから小説サイトのページを開きました。ログインして閲覧者の人数を見るとスマートフォンを取り落としそうになりました。
「き、奇跡が起きたよ。玲。」
黙って付いてきて一通りの行動を見ていた玲は静かに言いました。
「つぶちゃん、奇跡じゃなくて結果だよ。僕ら言ったでしょう?すごく面白いお話だって。きっと完結して目に留めてくれる人が増えたんだね。」
「そうなのかな?」
「そうだよ。」
ただただ実感なく携帯の画面を玲とふたり見つめ続けました。