パパには内緒。
家に帰ってからリビングで小説の続きを書いていると、ママがやって来ました。
「まどか、勉強してるの?」
「ううん、小説書いてる。」
一瞬迷いましたが、正直にママに話しました。
「小説?まどかが?凄いじゃない。どんなお話なの?」
「今は言えない。ちゃんと書けるか分からないし。」
「そっか。じゃぁ、読ませてもいいって思うお話が出来たらママにも読ませてね。それと、ここで書いてるとパパがやって来て小説どころじゃなくなるから自分の部屋でやった方がいいわよ。」
「うん。」
私はパパの存在を思い出して慌ててテーブルの上を片付けました。確かに小説を書いているなんてパパに知られたら邪魔して来ないわけが無いのです。
「はい、これ。」
ママは笑いながらマグカップに注いだ温かな珈琲を渡してくれました。私は自室に籠り沸いてくるお話を文章にまとめていきました。何ページも何ページも書いて、ラインの呼び出し音で我に返りました。
『こんばんは。まどか小説書けてる?』
香織からのメッセージでした。
『書いてるよ。』
『すごいね。私は早くも詰まり始めた(笑)』
『私なんて一行も書けてない(爆)』
『そもそも僕は書く気がない(死)』
途中で莉那と玲も合流して4人で他愛のないメッセージのやり取りを楽み、途中でパパが夕ごはんに呼びに来ました。
「まどか、夕ごはんが出来てるよ。降りておいで。」
「はぁい。」
『夕ごはん食べてくるね。』
『了解。』
ラインを終了してリビングに降り、テーブルに座っていただきますの挨拶を済ませるとパパが
「まどか、珍しくノートを開いていたけど、勉強してたのかい?」
と質問してきました。
「もうパパったら、まどかだって勉強もするでしょう。いつも読書ばかりじゃないわよ。」
ママにちらりと目をやると軽く目配せを送ってきてくれたので、きっとパパには内緒ねのサインです。
「まぁ、そうだけどさ、ラインもしてた。パパにはあんまり送ってくれないのに。」
ちょっと恨めしそうに言うパパ。実は毎晩寝る前にパパから『おやすみ』と送られてくるのです。初めは返信しましたが途中でやめてしまったのがちょっと気に入らないみたいです。
「あのね、パパ。私やパパは毎日一緒に暮らして顔を合わせているんだからラインなんてほとんど必要ないでしょう?」
「それはわかってるけどさ。」
「子供みたいな事を子供に向かって言わないで。」
面倒臭くなって私がいい放つとママが大笑いしました。
「子供に叱られるなんて、パパ失格ね。」
「・・・・・・。」
パパは無言で縮こまる動作をして大人しくなりました。こうしてママに守られ私は家でも小説を書き続けることが出来ました。玲も変わらずほぼ毎日家にやって来ましたが小説を書く邪魔をすることはせず、ママが出してくれるおやつを食べ、持参したゲームで時間を潰して帰って行く日が続きました。私は毎日、毎日書くことに没頭し、時間を忘れたように過ごしました。だから、パパからの『おやすみ』のラインでもう寝る時間なんだとベッドに入る習慣がつき、ちょっと役立ってます。もちろん役立っている事はパパには内緒ですけど。だから本当にたまにだけど『おやすみなさい』と返信を入れてあげる事にしています。