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入学式に想いを込めて ~PTA会長の言葉~

実際に入学式に私が読み上げた祝辞です。

今日の天気は最悪ではないけど、最良でもない微妙な空模様だ。

晴れの中学の入学式なのに、曇り空とはいただけない。


そんなことを思いながら中学に着いて、事務室がある入り口へと向かった。入口に入る前から、簡易の受付が見えた。生徒たちにも手伝わせているようで、受付のところに数人並んでいた。


「こんにちは。ご苦労様です。お名前を教えてください」


パンプスからスリッパに履き替えて、受付のところに立った私に、真ん中にいた生徒が訊いてきた。


「PTA会長の井上凛子です」

「PTA会長の井上様ですね。控室にご案内します」


娘と同じ部活だった子が、私を控室に案内してくれた。


「どうぞ、中でお待ちください」


部屋の中には他の来賓の方々が5名ほどいらしていた。


「こんにちは。本日は生徒たちのためにおいでいただきまして、ありがとうございます」

「井上さんも、午前も小学校の来賓をお疲れ様です」

「こちらが主賓ですよね。祝辞を楽しみにしていますよ」


そんな声を掛けられて私も席に座った。


ここにも手伝いの女の子たちがいて、来賓にお茶を出している。私は「ありがとう」と言って、早速湯飲みを持って一口飲んだ。そして、時間まで他の方々と談笑をしていた。


校長と教頭が控室にやってきた。


「ご来賓の皆様、お忙しい中を入学式にご出席いただきまして、ありがとうございます。これから教頭が名前を読み上げますので、呼ばれた方から廊下に出てお並びください」


来賓の最初はPTA会長である、私。それから連合町内会会長。その後は各町内会会長方。学校評議員の方々と名前を呼ばれて廊下に並んだ。


校長の先導で体育館へと入り席に座る。何人か知っている保護者の方がいた。


新入生、入場。吹奏楽部の演奏で新入生たちが入ってきた。新入生たちが席に座り式が始まる。


開式の言葉

国歌斉唱

校歌斉唱

新入生呼名

学校長式辞


この次が私の出番。


「来賓祝辞。○○中学校PTA会長、井上凛子。新入生、起立」


私は立ち上がり、席から三歩離れたところで、他の来賓の方にお辞儀をした。そして一歩前に出て、校長並びに先生方が座っているほうに向かいお辞儀をする。階段を上がったところで、国旗に向かい、礼。それから演台のところまで歩いていき、立ち止まる。


「新入生、礼」


生徒たちが頭を下げるのに合わせて、私も頭を下げる。頭を上げて、司会の人に新入生に座ってもらうように合図をする。


「新入生、着席」


新入生が座ったのを確認して。私はマイクに向かって話し始めた。



『新入生の皆さん、中学校にご入学おめでとうございます。ご父兄の皆様、中学校の入学式を迎えられましたこと、心よりお祝い申し上げます。


 皆さんは、今日から○○中学校の生徒になりました。中学校生活のスタートです。この中学校での三年間で、皆さんには一つ「やりたいこと」を、見つけてほしいと思います。今は「やりたいこと」がわからないと思いますので、提案をさせて頂きたいと思います。


 私は新入生の皆さんよりも、少しだけ人生を長く生きています。もちろん中学生だった頃もあります。中学生の頃は考えていなかったこと、思っていなかったことが、この先にいろいろと待っています。私が皆さんと同じ中学生の頃に「やりたいこと」を見つけて、それを実現するために努力をしました。


 さて、何が言いたいのかというと、中学生になった皆さんに、一つの目標を掲げてほしいと私は思ったのです。目標は何でもいいですが、近い目標よりも、この中学生の間に達成したいことや、将来なりたい職業など、長期的な目標を見つけてください。そして、それに向かって努力し続けてほしいのです。


 私は中学2年の夏休みに、母の病気のために台所に立つことになりました。最初は手際も悪く、本を片手に食事作りに励む日々でした。ですが、私が作った食事を家族が美味しいと言って食べてくれて、とてもうれしくなったのです。そこで私の「やりたいこと」が見つかりました。


 私は私が作ったものを、皆に食べてもらいたい。美味しいと笑顔になってもらいたいと思ったのです。なので「調理師」になりたいと思いました。


 この目標のために、高校を調理関係のことを学べる学校を選び、高校を卒業後、調理師資格を取るために、働きながら調理師学校の夜学に通うことにしたのでした。


 なぜ、昼間に調理師学校に通わなかったのかと云えば、私が選んだ高校に関係していました。私が行ったのは私立(わたくしりつ)の学校です。私立(わたくしりつ)は公立よりお金がかかります。私は自分のわがままで親に負担をかけてしまいました。なので、専門学校のお金まで、負担をさせたくなかったのです。


 働きながら学校に通うのは、なかなか大変でした。それでも、自分で決めた目標のために頑張れました。ちゃんと専門学校を卒業して調理師の資格を取ったのですよ。


 このように目標が見つかれば、それに向かって努力する方向性も見えてきます。ぜひとも皆さんも自分の「やりたいこと」という、目標を見つけてください。


 小学校で学んだこと、中学校で学んだこと、そして高校・大学・社会人となってから学ぶことについて、無駄なことは何一つありません。知っていて当たり前のことを、今、習っているのです。今、勉強しておくことが、これからの皆さんの大きな糧になることは、間違いありません。


 日々の努力は、小さな一歩でも、それを続けることで、大きなものを実現することが出来ることを知ってください。そのために必要な基礎を学ぶことが大切ですので、しっかりと学んでくださいね。


 保護者の皆様、この中学校での三年間は身体(からだ)の成長だけではなく、心の成長も目覚ましい年頃です。そして、親離れを迎える時期でもあり、反抗期を迎える時期でもあります。中学生としての責任と義務について、話し合うことや、健全に育てることが大人としての務めだと思います。のびのびと中学校生活を過ごせるような環境を、PTAとしても作っていく考えでありますので、ご協力のほど、よろしくお願い致します。


 そして先生方。子供たちは一時的に先生方をはじめ、大人の声が届かない反抗期の時期に入り、ご指導が大変だと思いますが、どうか子供たちが「やりたいこと」や「目標」に向かって進めるように、是非、支えてくださいますように、よろしくお願いします。


 最後になりましたが、ご来賓の皆様には、ご臨席を賜りまして、誠にありがとうございました。今後とも地域の皆様のご支援とご協力をお願い申し上げまして、お祝いの言葉とさせて頂きます。本日は誠におめでとうございます。



平成30年4月6日

○○中学校PTA会長 井上凛子』


私は祝辞を言い終わったと、司会の人に合図を送った。


「新入生、起立」


新入生が立ち上がりました。


「新入生、礼」


私も一緒に礼をして、顔を上げると演台を離れます。階段のところで振り返り、国旗に向かって礼をした。階段を下りて、校長先生方のほうにお辞儀をして、向きを変えて来賓の方々にもお辞儀をしてから、席に座った。


「新入生、着席」


この言葉にそっと息を吐き出した。緊張していないつもりだったのに、やはり少しは気を張っていたようだ。


「来賓紹介」


司会の言葉に教頭が来賓の名前を読み上げる。


「○○中学校PTA会長 井上凛子」

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」


立ち上がって言葉を言い、お辞儀をしてから席に座る。他の来賓の方々も名前を読み上げられると、一言お祝いの言葉を言っていった。


祝電披露

歓迎の言葉

教科書給与

誓いの言葉

歓迎の歌

閉式の言葉


これで入学式は終わりだけど、続けて先生方の紹介をした。


また、吹奏楽部の演奏に合わせて、新入生は退場していった。


校長がそばに来て、来賓の退場。入場した時と反対になるので、私が一番最後だ。顔見知りが私に笑ってくれたので、軽く手を上げて合図を送ったら、わかってくれたようで笑みが深くなった。


そして、他の来賓の方は帰られたあと、私はもう一度校長と共に体育館に戻り、新入生の保護者の方達にPTA活動への協力をお願いして、中学校を後にしたのでした。


私なりに考えた言葉。式後に顔なじみの先生に「すごくよかったです」と言っていただけたけど、生徒たちの心に少しでも残ってくれるといいなと思います。


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― 新着の感想 ―
[一言] 卒業式、入学式の祝辞はPTA会長としての最大の見せ場ですよね。 それを嫌がる方も少なくはないのだけれど、多くの会長さんは見事にやってのけますね。 やはり、会長ともなればそれなりの人が選ばれる…
[一言] PTA会長お疲れ様です。 お決まりの言葉を綴らない、舞花さんの気持ちがこもった祝辞、とても素敵でした!
[良い点] 本当に情景が目に浮かび、素晴らしいお話だったと思います。その場で聞いて見たいとすら思えます。 [一言] 本当に、私たちの時代の祝辞は苦痛でしかなかったです。 あー、えー……どこまで読んだか…
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