仮想/現実③ ghost
仮想/現実③
「ghost」
僕はインターネットの中の幽霊だ。誰かを怖がらせたり、驚かせたりはできないけれど、インターネットの中で、ちょっとしたイタズラならできるのだ。いきなり画面を消してみたり、データの保存場所を変えてみたり、そんなつまらないことなのだけど。最近、夢中になっているイタズラは、「ガチャ」の操作だ。
最初は、ちょっとした気まぐれだった。インターネットの中を、ふわふわ浮いていたら、どこかで強い念を感じた。誰かが、「ガチャ」を引いているのだ。「ガチャ」とは、ゲームのプレイヤーがゲーム上で動くキャラクターを選び出す操作のこと。星の数でその強さが決まる。星5個なんかは、ものすごく強いのだ。その子が引きあてた「ガチャ」は、星2個の普通のキャラクタ-だったけど、僕はちょっとイタズラしたくなったのだ。星2個のキャラクターと星5個出現率1パーセントのキャラクターをすり替えたのだ。その子の歓喜は、大変なものだった。キャラクターはなくさないようにしっかり操作して、友達にSNSで連絡し、とにかく大喜びだったのだ。僕はうれしくなって、このイタズラをあちこちでするようになった。僕は毎日喜びと感謝の声に囲まれて生きていくこととなったのだ。
しかし、この幸せは長くは続かない。ゲームのプレイヤーは星5個に飽きてしまったのだ。そうなると、僕がどんなに星5個を出しても、誰も感謝をしなくなった。それどころか、せっかく出した星5個を、その場で消去してしまうような輩まで出てきたのである。
僕はすっかり意気消沈して、このイタズラをやめることにした。別のインターネットの世界に行こうとしたとき、また強い念を感じた。
「またかよ」
うんざりしたのだが、最後にもう一度だけ、イタズラをすることにした。偶然引き当てた星5個を星3個のキャラクターにすり替えてやったのだ。
「やった。アタリだ!」その子は叫んだ。
「どれどれ、なんだ、星3個じゃないか、はずれだよ。」と、横にいた友達が言った。
僕もはずれだと思っていた。だって、星5個が、みんなほしいのだろう。
「ずっと、欲しかったキャラクターなんだ。絶対に大事にする、大事に育てて強くする。」と言ってなくさないようにしっかりと操作して、キラキラした目でいつまでもそのキャラクターを眺めていた。
僕は、その日一日幸せな気持ちでいることができたんだ。