作戦開始
こちらでも、一度だけ案内を。
「異世界帰りのロートル(おっさん)英雄、天才少女の保護者となる」
という新作を連載しているので、ご興味ある方はよろしくです。
その夜の馬鹿騒ぎは、思い出すのも頭が痛いが、一応翌朝には俺が「蒸し返すなよ、その話」と告げたお陰か、もう収束していた。
頼りにしていたアーネストは、翌日の昼には連絡をくれたので、いずれにせよ、今はまたしても行動を起こす時である。
麗の身体の在処は、侵攻軍の旗艦であるブラックアローという巨大戦艦であると彼に教えられ、俺は内心の予想が当たっていたのを実感した。
重要な人質であるなら、他の艦よりもむしろ旗艦が一番可能性が高くて当然だろう。
『ただまずいことに、そのブラックアローには、あの勇者を名乗るリュクレールもいましてな。一歩間違うと戦闘になります』
二度目の電話で、アーネストはそう断言した。
「遅かれ早かれ、戦いにはなるさ」
対して俺の口調はあくまでも気安い。
なぜなら、もはや覚悟が決まったからだ。
「今回は麗の肉体がかかってるんだ。是が非でも取り戻す。そのためには、俺も力の出し惜しみはしない」
きっぱり言い切ると、電話の向こうで愉快そうに笑う声がした。
『はははっ。いよいよ、かつての魔王が本気を出しますか。なら、我が輩もいささかの手助けを致しましょう』
「ありがとう! じゃあ、決行は今晩でどうだ? 引き延ばす意味もあまりないし」
『異存ありませんともっ』
アーネストも頼もしく賛同してくれて、ここに、敵戦艦への突入が決まった。
ちなみに俺は、麗の肉体の回収だけではなく、その戦艦とやらを奪うつもりでいる。
……もちろん俺は、例の即席レジスタンスへのメンバーにも連絡を入れて、もし同行する気なら、うちに来てくれと電話しておいた。
その時には「急いで検討する」と返事をくれたものの、結局は夜になっても誰も来なくて、訪れたのは、最初から約束のあったアーネストだけだった。
「皆さん、こんばんは」
ヴァンパイアの正装とも言うべき、漆黒のタキシードとマント、それにシルクハットを着用したアーネストは、リビングで丁寧に一礼した。
俺達もそれぞれ低頭したが、アーネストは俺の表情を見て、いち早く悟ったらしい。
「どうやら、レジスタンスの諸君は、来なかったようですな?」
「まあね。日本の問題だし、誰か一人くらいは共闘してほしかったが……まあ、期待が持てないというのなら、俺達だけでやるさ」
森川を含めて、皆が心配そうに見るので、俺はあえてきっぱりと告げた。
「元々、俺の考えが甘かったのかもしれない。ならば、今から俺はかつての魔王として、本来の力を振るうのみだ。仲間は今、ここにいる! 他人に余計な期待は」
言いかけた途端、なぜかタイミングよくチャイムが鳴った。
「我が輩には予感がありますな!」
綺麗に髭を剃った顎を撫で、アーネストがニヤッと笑う。
急いで応対に出たユウキは、やがて見覚えのある二人を連れて戻ってきた。
「レジスタンスのリーダーの四郷殿と、ドライバー役だった神原殿が来てくれましたわっ」
ユウキは、我が事のように嬉しそうに言った。
俺も思わずニヤニヤしてしまったが、入ってきた男二人を見て、口を半開きにした。
「いや、申し訳ないっ」
いきなり頭を下げたリーダーの四郷は、敵から鹵獲したらしい魔導銃を腰に下げているのはいいが、上も下も迷彩色柄の戦闘服で、私服姿のラフな格好の俺達とはエラい差だった。
ただし、神原の方はただのジャケットとズボンで、武装はしていたが、特におかしな格好ではない。
「女の子達を同行させるか、ちょっと考えてね……結局、彼女達は留守番させることにした。みんなついてきたがったんだが――」
言いかけ、静まり返ったリビングを見渡し、四郷は不安そうに首を傾げた。
「あの、なにか?」
「なにか、じゃないだろ?」
いつも陽気な神原が、呆れたように友人の肩を叩く。
「だから言ったろ? 迷彩服なんざ、場違いだって! どこのベトナム戦争だよ? 戦艦だぞ、目的地はっ」
「おまえ、古いよっ。なにがベトナムか!」
四郷はむっとして言い返し、その後で俺達を順番に見やる。
「やっぱ……おかしいですかね? 僕的には、真剣に戦うつもりで用意したんですが」
その瞬間、俺は噴き出しそうになっていたのを辛うじてこらえ、自分から四郷の手を取った。
「いや、来てくれただけでとても有り難い。頼りにしてるさ」
四郷の背後では、ユウキが身体を折って笑いを堪えていたが、俺はあえて見えない振りをした。
とにかく……作戦開始だ。