肉体のみを求めてくださっているとしても
俺は最初からあの洒落た格好の――しかも、いかにも昔気質の性格っぽいアーネストが、気に入っていた。
だから、この際全面的に信用することにして、この隠れ家の場所を教え、向こうから来てもらうことにした。森川以外はみんな控えめに反対したが、俺は頑として意見を変えず、再会の約束をして電話を切った。
「中途半端が一番駄目だ」
開口一番、そう告げる。
「あのリュクレールは、中途半端にアーネストを利用しようとした。その結果、袂を分かつことになったんだからな」
改めて、コの字型のソファーに集まった皆を見渡し、そう告げる。
みんな最終的には俺に従ってくれるという自信があればこそだが、案の定、真っ先に麗が低頭して言ってくれた。
「九郎さまの深謀、よくわかりました。そもそも今回は、麗の至らなさが」
「ストップ」
途中で俺はさっと手を上げる。
麗がむちゃくちゃ気にしているのはわかるが、謝ってほしくない。
「麗のミスじゃないと前にも言ったろ。それにこれは、俺のわがままでもあるんだ」
「わがまま? 父上がですかっ」
一番わがままそうなルイが、碧眼を瞬く。
「そう、わがままさ。なにせ、元の麗の姿に戻ってほしくて、多少の無理を押し通して戦艦に乗り込む気だからな。まあ、こんなことがある前から、そのつもりではあったけど」
心持ち麗が身を乗り出し、他の皆はおおむねきょとんとしていた。
なにか説明を待っているようなので、気が進まないながら、教えてやった。
「麗がエイレーンの姿のままだと、落ち着かない。別にあの元兵士だって美人には違いないけど、俺はやっぱり麗の姿の方が好きだからな」
「なんですとっ」
いきなりルイが立ち上がったかと思うと、麗本人は口元を両手で覆った。
いつも冷静な彼女が、ぽろぽろ泣き出していて、びびってしまう。
「な、なに泣いてるんだよ」
「今のご発言、深い意味があってのことでしょうか!」
ユウキまで、未だにわんわん――じゃなくて狼形態のままテーブルに前足を乗せ、くわっと身を乗り出す。
一番巨体なんだから、邪魔だろうに。
「ふ、深い意味もなにも……ファン活動だってしてたんだから、そりゃ元に戻って欲しいだろう。当然じゃないか!」
憤然と言ってやると、立ったままのルイが深刻な声音で訊いた。
「それは……ゆくゆくは婚儀を結ぶという意味でしょうかっ。こいつと!」
剛力の割に細い指で、びしっと麗を指差す。
「待てこらっ。それはおまえ、途中段階をごっそり飛ばしてるだろっ」
俺まで意識して赤くなったではないか!
「今の俺は麗と手を繋いだことすら……いや、そうでもないか」
手は繋いでるな、うん。それどころか、他にもいろいろ。
しかし、森川がやたらと真剣に見つめていたので、それ以上は言わずにおいた。
「で、ではっ、婚儀とかそんなつもりはないけど、この女の元の身体は好きだと? この際だから申し上げますが、ルイの方がスタイルいいですよっ」
お、おまえ、言うにことかいて、なんというセリフを。
俺は呆然と仁王立ちのルイを見つめた。
「真剣な顔で、ボケるなよっ。だいたいおまえ、その言い方だと、俺が相手の身体だけ求めてるみたいじゃないか!」
「れ、麗はっ――」
なぜか涙目の麗まで、正面でぱっと立ち上がった。
「この麗は、九郎さまが我が肉体のみを求めてくださっているとしても、十分すぎるほど幸せでございますっ!」
『えぇええええええええっ』
ルイと森川と、それにユウキまで声を合わせて悲鳴を上げた。
一方、俺は久しぶりにむちゃくちゃ動揺した。
「馬鹿、アイドルの身でなんということをっ」
週刊誌にすっぱ抜かれたら、終わりだろっ。
全く見当外れのことを喚いたが、その頃にはみんな口々に何か叫んでいて、場が大混乱に陥っていた。
こいつら、ここに潜伏中だってこと、忘れてるっ。
「話題がいきなり不謹慎になってるぞっ」
止めるつもりで、俺は叫んだ。
トドメに、わなわな震えていたルイが、でっかい声で叫んだ。
「ルイだって、身体くらい、いつでも父上に差し出しますよっ」
「み、みんなそういう覚悟なら、わたしだって」
も、森川まで……とうとう一番有り得ない子までそんな宣言をしてしまい、もはや騒ぎが収まる気配は皆無だった。
一昨日くらいから、新たな物語の連載してます。
中編~長編? まだ長さは未定ですが、よろしければどうぞ。