表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/96

肉体のみを求めてくださっているとしても


 俺は最初からあの洒落た格好の――しかも、いかにも昔気質の性格っぽいアーネストが、気に入っていた。


 だから、この際全面的に信用することにして、この隠れ家の場所を教え、向こうから来てもらうことにした。森川以外はみんな控えめに反対したが、俺は頑として意見を変えず、再会の約束をして電話を切った。




「中途半端が一番駄目だ」


 開口一番、そう告げる。


「あのリュクレールは、中途半端にアーネストを利用しようとした。その結果、たもとを分かつことになったんだからな」


 改めて、コの字型のソファーに集まった皆を見渡し、そう告げる。

 みんな最終的には俺に従ってくれるという自信があればこそだが、案の定、真っ先に麗が低頭して言ってくれた。


「九郎さまの深謀、よくわかりました。そもそも今回は、麗の至らなさが」

「ストップ」


 途中で俺はさっと手を上げる。

 麗がむちゃくちゃ気にしているのはわかるが、謝ってほしくない。


「麗のミスじゃないと前にも言ったろ。それにこれは、俺のわがままでもあるんだ」

「わがまま? 父上がですかっ」


 一番わがままそうなルイが、碧眼を瞬く。


「そう、わがままさ。なにせ、元の麗の姿に戻ってほしくて、多少の無理を押し通して戦艦に乗り込む気だからな。まあ、こんなことがある前から、そのつもりではあったけど」


 心持ち麗が身を乗り出し、他の皆はおおむねきょとんとしていた。

 なにか説明を待っているようなので、気が進まないながら、教えてやった。


「麗がエイレーンの姿のままだと、落ち着かない。別にあの元兵士だって美人には違いないけど、俺はやっぱり麗の姿の方が好きだからな」

「なんですとっ」


 いきなりルイが立ち上がったかと思うと、麗本人は口元を両手で覆った。

 いつも冷静な彼女が、ぽろぽろ泣き出していて、びびってしまう。


「な、なに泣いてるんだよ」

「今のご発言、深い意味があってのことでしょうか!」


 ユウキまで、未だにわんわん――じゃなくて狼形態のままテーブルに前足を乗せ、くわっと身を乗り出す。

 一番巨体なんだから、邪魔だろうに。


「ふ、深い意味もなにも……ファン活動だってしてたんだから、そりゃ元に戻って欲しいだろう。当然じゃないか!」


 憤然と言ってやると、立ったままのルイが深刻な声音で訊いた。


「それは……ゆくゆくは婚儀を結ぶという意味でしょうかっ。こいつと!」


 剛力の割に細い指で、びしっと麗を指差す。


「待てこらっ。それはおまえ、途中段階をごっそり飛ばしてるだろっ」


 俺まで意識して赤くなったではないか!


「今の俺は麗と手を繋いだことすら……いや、そうでもないか」


 手は繋いでるな、うん。それどころか、他にもいろいろ。

 しかし、森川がやたらと真剣に見つめていたので、それ以上は言わずにおいた。

 

「で、ではっ、婚儀とかそんなつもりはないけど、この女の元の身体は好きだと? この際だから申し上げますが、ルイの方がスタイルいいですよっ」


 お、おまえ、言うにことかいて、なんというセリフを。

 俺は呆然と仁王立ちのルイを見つめた。


「真剣な顔で、ボケるなよっ。だいたいおまえ、その言い方だと、俺が相手の身体だけ求めてるみたいじゃないか!」

「れ、麗はっ――」


 なぜか涙目の麗まで、正面でぱっと立ち上がった。


「この麗は、九郎さまが我が肉体のみを求めてくださっているとしても、十分すぎるほど幸せでございますっ!」


『えぇええええええええっ』


 ルイと森川と、それにユウキまで声を合わせて悲鳴を上げた。

 一方、俺は久しぶりにむちゃくちゃ動揺した。


「馬鹿、アイドルの身でなんということをっ」


 週刊誌にすっぱ抜かれたら、終わりだろっ。

 全く見当外れのことを喚いたが、その頃にはみんな口々に何か叫んでいて、場が大混乱に陥っていた。

 こいつら、ここに潜伏中だってこと、忘れてるっ。


「話題がいきなり不謹慎になってるぞっ」


 止めるつもりで、俺は叫んだ。

 トドメに、わなわな震えていたルイが、でっかい声で叫んだ。


「ルイだって、身体くらい、いつでも父上に差し出しますよっ」

「み、みんなそういう覚悟なら、わたしだって」


 も、森川まで……とうとう一番有り得ない子までそんな宣言をしてしまい、もはや騒ぎが収まる気配は皆無だった。



一昨日くらいから、新たな物語の連載してます。

中編~長編? まだ長さは未定ですが、よろしければどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ