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思わぬ助け


「一体、誰なのかな?』



『今、僕の隣にいるので……本人に代わりますね』


 四郷がそう述べた次の瞬間、聞き覚えのある声がした。


『再戦を約束した我が輩ですぞ! 夜分、お騒がせしますな』

「……ヴァンパイアの真祖を名乗っていた、アーネストかっ」

『左様、左様。覚えて頂き、光栄ですな』


 満足そうに言う。


『訊かれる前に先にご説明しますが、別にあの後で尾行したわけではないのです。事情が変わり、我が輩の方でなんとしても九郎殿と再会する必要が生じましてな。やむなく、使徒であるコウモリ達を続々と都内各地に送り、探索しておりました。幸い、別れてまだ時間も経っておらず、経路を辿るのはそう難しくありませんでしたな』


 九郎や森川はともかく、ルイやユウキ、それに麗などは、たちまち殺気を帯びた目つきになっていた。

 もし、アーネストの言うことが真実で、既にこの場所が判明しているとすれば、もはやいつ敵が押しかけるかわからないわけだ。それを思えば、無理もない。

 しかし、電話の向こうでアーネストは落ち着いて説明した。


『先にこちらのアジトにお邪魔したのは、いきなりそちらを訪ねるより、遥かによかろうと思ったからです。誤解を避ける意味でも』

「……優秀な使徒を持っているようだな」


 眉をひそめたが、九郎はアーネストが嘘をついているとは思わなかった。

 優秀なヴァンパイアなら、下位の使徒を幾らでも召喚できるだろうし、そいつらに探索を命じれば、別れた直後なら見つかっても不思議ではあるまい。

 むしろ、直接ここに押しかけないだけ、向こうは気を遣っているとも言える……本人が説明した通り。


「自称勇者のリュクレールには、もう話したのか?」


 九郎がさりげなく問うと、憤慨したような声がした。


『とんでもないっ。再戦の約束はしましたが、我が輩はこう見えて、卑怯な真似が嫌いでしてな。こうして連絡したのも、つい今し方、彼女とは袂を分かったからです』

「リュクレールと? それはまたどうして――いや、待ってくれ」


 ここへきて、九郎にもうっすらと察しがついた。 


「あんたは、あの女戦士がこっそり麗の肉体を奪ったのを、聞かされていなかったわけか?」

『その通りですともっ』


 打てば響くように、アーネストが答える。


『我が輩にはあの広場で貴方を捕縛すると申しておりましたのに、実は貴方の仲間を確保するのが、本当の目的だったわけです。人質ということですな、つまりは』


 嫌悪を隠しきれない声音で吐き捨てた。


『我が輩にそれを教えれば、こんな性格故に、必ず邪魔するだろうと思ったのでしょう……実際、その予測は当たっておりますぞ。こうなると、処刑場で罠を張るのとは、訳が違いますからな』


 彼にしては不機嫌な声で言う。


『我が輩は、誇りあるヴァンパイア一族の貴族、名門ヴァランタイン家の当主でもあります。よって、そういう姑息な真似は看過できません。婦女子を攫って盾にしようなど、英雄のやることではありませんからなっ』


 アーネストの声は、かなり本気そうに聞こえた……信じ難いことに。


『故に、先程のてれび放送? とにかくあれを聞いた直後に、問答無用で彼女とはたもとを分かちました。もはや敵でも味方でもありません』

「けっ、そんな話をおいそれと信じるほど、こっちは甘くないっていう――」


 早速横から文句をつけたルイに、九郎は首を振ってみせた。

 疑いは当然なのだが、本当に九郎達を騙すつもりなら、なにも悠長に連絡する意味などない。

 とうの昔に、この隠れ家に敵が押しかけてきているはずだ。





「詳細なご説明、痛みいる」


 九郎はあえて丁寧に礼を述べた。


「仲間の声が聞こえたろうが、気にしないでくれ。俺はあんたの言葉を信じるよ」

『やあ、嬉しいお言葉だ。いずれ再戦をして叩きのめす気持ちに変わりはないですが、貴方は確かに王者の資質がありますな!』


 ……熱心に褒められてしまった。

 九郎は苦笑して、自分から水を向けた。


「それで、いずれ再戦する俺の味方になるってことでもなかろう? 察するに、奪われた麗の肉体を奪回するためにのみ、少しばかり協力したい――そういう申し出かな?」


 そうだといいなぁと思って駄目元で話したのだが、これが見事に当たりだったらしい。


『よくおわかりだ!』


 アーネストはびっくりするほど大声で肯定すると、ふっと声を低めた。


『我が輩の能力なら、麗殿とやらを奪還するのに、大いに役立つでしょう。それに、今こうして話していることからわかるように、我が輩の探知能力も、捨てたものではありません。彼女をどこへ隠そうが、必ず見つけてご覧に入れる』

「俺は、あんたを信じると言った」


 九郎は穏やかに答えた。


「一度信じたからには、その言葉も疑う気はない。また借りを作ることになるが、喜んで力を借りよう。というか、麗のためにも、ぜひとも力を貸して頂きたい」

『貴方とは気が合いそうです』


 ニヤッと笑っているのが想像できるような彼の返事だった。


『そういうことであれば、我が輩は今から早速、麗殿の探索に励みましょう……というか、実はもう探り出しにかかっています』

「有り難い。ならば、今夜か明日にでも、救出の打ち合わせをしよう」


 九郎は即答して、ほっと息をついた。



 全面的に味方にするのは難しいだろうが、麗を取り戻す助けになるなら、これほど嬉しいことはない。


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