首と一緒に晒します
九郎の悪い予感はどうやら当たったらしい。
自称反乱軍の隠れ家を出て、打ち合わせしておいた集合地点へ向かったのだが――。
途中、ようやく麗から連絡があったものの、その内容は『隠した場所に麗の肉体が見当たらず、もう少し周辺を探してみますっ』というものだったのだ。
「待て、麗」
スマホを介しての会話は危険だが、切られる前に九郎は声を張り上げた。
「隠し場所にない以上、そりゃ敵が拉致したとみるべきだ。今、中に入っているのはエイレーンの魂だが、現状は肉体ごと眠らせているからな。実は俺が、事前に魔術的な印を付けてある。すぐに位置を探るから、しばらくそのまま待てっ」
『ご苦労をお掛けします!』
「すぐだからなっ」
とりあえず通話をホールドしたまま、九郎は目を閉じてエイレーン――いや、忠実な霧夜麗の肉体を探った。
魔力による見えない印だから、こればかりは敵に見つかる恐れはないはずだ。
ただ……探った結果、麗の肉体はもはや地上にないことがわかり、九郎は顔をしかめて遥か上空を仰いだ。
「やられた、くそっ。道理で俺達を簡単に逃がしてくれたわけだっ」
「どうしました、父上っ」
「我が君!」
路上で呻く九郎に、早速、ルイとユウキが声をかける。
九郎は麗の肉体を奪われたことを説明し、上空を指差した。
「場所は見つけたが、どうやら遥か上空らしい。つまり、敵の戦艦内に収容されちまった」
なんとも言えない顔をする二人を無視して、九郎はスマホの向こうにいる麗に呼びかけた。
「聞こえていたと思うが、今いった通りだ。必ず奪い返すから、一旦俺達と合流しろ」
『……りょ、了解しました』
いつも冷静な麗も、さすがに声に落胆が交じっていた。
まあ、自分の肉体が敵に奪われ、エイレーンとのポゼッションを解除できないとなれば、当然だろう。
「どう……なさいますか、我が君」
スマホを切った九郎に、ユウキが恐る恐る尋ねた。
「もちろん、取り返すさ」
九郎はきっぱりと告げた。
「エイレーンの肉体に閉じ込められた麗を、そのままにできない」
「しかし、敵はどうして、麗の肉体なんか?」
ルイが眉根を寄せて呟く。
「その場で肉体を破壊すれば、面倒がないと思うのですが」
「そりゃ当然、俺達になにか要求があるんだろうな……麗の肉体を人質にして」
九郎は苦々しく答えた。
正直、当たってほしくない予想だったが、戻ってきた麗(肉体はエイレーン)と一緒に一旦、隠れ家に戻ると、留守番をしていた森川が飛んで来て、いきなり教えてくれた。
「敷島君! さっきテレビで、リュクレールって真っ白な髪の人がテレビ放送で――」
「俺達宛かっ。テレビ放送なんか使いやがったのか!」
殺気だった九郎に目を丸くし、森川はコクコク頷いた。
「あ、悪い。ちょっとむかついていたところなんで。で、俺達もそのメッセージ、見られる?」
「録画しておきましたっ」
「ありがとうっ。気が利くな、森川っ」
声を張り上げた謝罪のつもりで、そっと森川の肩に触れてやり、皆でどやどやとリビングに入る。
テレビのスイッチは既に入っているが、砂嵐のような画面のままだ。
ただ、森川がリモコンを渡してくれた。
「三度くらい、繰り返し放送があったの。再生ボタンを押したら、すぐに見られるわ」
「重ね重ね、ありがとう」
強張った顔の麗がすぐにテレビの前に立ったのを見つつ、九郎は再生ボタンを押す。
先程の戦いで、途中から姿を消していたリュクレールが、同じバトルスーツ姿でいきなり現れた。
『駅前広場ではお疲れ様でした、魔王ヴェルゲン……いえ、こちらでは敷島九郎さんでしたか? 処刑予定の罪人達は見事に救出したようですが、こちらはこちらで、貴方の忠実な女性臣下を捕らえていますよ。……まあ、肉体のみですけど、貴方にとっては大事なものでしょう』
「……くっ」
無理もないが、今はエイレーンの身体に閉じ込められた麗が、悔しそうに画面を睨んでいた。
声をかけたかったが、九郎が話す前に、リュクレールが先を続けた。
『こちらの要求は簡単です。手を引きなさい、九郎さん。貴方が手を引くなら、時期を見て、この少女の肉体は返しましょう。しかし、余計な真似を続けるようであれば――』
わざとらしく間を置いてから、笑顔のまま言い切った。
『この少女の身体は、裸に剥いた上で、バラバラに解体して首と一緒に晒します。そうなると、いろいろと都合が悪いのでは? では、そういうことで』
好き放題を言った挙げ句、画面はぶつっと切れた。