ここのみんなにも出来ることはある
「ただ、ここのみんなにも出来ることはある」
落ち込んでいる連中に、九郎はあえて優しく続ける。
「今回の救出作戦のために、俺の仲間が一人、ポゼッションで敵兵士に化けてたんだ……もう知っていると思うけど」
「あの、外人風の金髪士官ですよね?」
リーダー格の四郷がすかさず口添えしてくれた。
「そうそう。エイレーンって名前の女士官だな。実はあいつ、以前にも捕虜として捕まえてたんだが、そのせいで味方から処刑されかかったんで、今回、ついでに救出を試みた。そこで、作戦の一環として彼女にポゼッションした結果、新たな情報が判明したのさ。拘束されていたエイレーンの記憶によると、巡回の兵士達が、司令官が乗船する戦艦の名を何度か出したらしい。そこには侵攻軍の司令官のみならず、話題の勇者も乗船しているとか」
そこで九郎が皆の反応を窺ったが、四郷達ではなく、ルイがぱしっと自分の掌に拳を叩きつけた。
「つまり、敵の中枢へ奇襲をかけるというわけですね、父上っ」
「……まだ秘密な? その調子で大声で触れ回ったら駄目だぞ」
慌てて九郎は念を押す。
「心得ていますとも!」
まあルイの場合、仲間内以外に特に触れ回る相手がいないが。
「奇襲かぁ」
ドライバーだった神原が、やたらと嬉しそうに天井を見上げた。
「いやあ、萌える――じゃなくて、燃えるシチュエーションだな、それ。もし本気で決行するなら、ぜひ俺もメンツにいれてくれないかね?」
「おい、神原っ」
慌てた様子で四郷がそっちを見た。
「カラオケに行くんじゃないぞっ。わかってるか、相手は巨大戦艦なんだぞ!?」
「わかってるって。俺、意外と考えてもの言ってるよ」
ルイや四郷の睨みもなんのその、相変わらず明るい口調で神原が答える。
「要するにそっちの敷島サンは、『おまえらも自分のことなんだから、こういう時は俺達と一緒に戦えや、なっ!』て言いたいわけでしょ? だからこそ、敵が揃ってそうな戦艦の話なんか持ち出したと……それに対して俺は、『喜んで参加しまっせ!』と意思表示したわけだ」
そこで彼は友人らしき四郷はもちろん、仲間の女の子達をも見渡す。
「ほれ、おかしい話じゃないっしょ?」
「あぁああ、そういうこと……か」
「気付かなかったぁ」
「暗に、勧められてたわけね、うんうん」
女性陣の何名かが、今気付いたような顔で頷きあった。
……九郎的には、「え、そういう流れの話だと、これまでわからなかったの?」と言いたいが。
「メインの攻め手は俺達が担当するつもりだけど、陽動作戦的に、艦内の他の区画で暴れる仲間がいると、敵の注意が逸れて助かる」
あまりにも不安なので、九郎は言わずにおこうと思った、現時点の計画を話してやった。
「ええ、だいたいそういうことだろうと、思っていました」
四郷が苦しそうに呟く。
「しかし、僕にはこの小さい組織に対して責任がある。武器も完全に十分とはいえないし、そもそも我々は今日出会ったばかりです」
「おいっ、おまえらどれだけ根性ナシ――」
またしてもルイが立ち上がろうとするのを、九郎がささっと止めた。
「ルイ、落ち着け。四郷さんはリーダーなんだ……リーダーとして考えりゃ、ほいほい話に載るわけにはいかないのは、当然だ。みんなの命を預かってるわけだもんな」
九郎が笑いかけると、四郷は恐縮したように頭をかいた。
「……僕だけなら、二つ返事で受けたい話なんですが」
「まだ時間があるから、考えればいいよ。俺達だって、今すぐ動くわけじゃない」
今日はここまでというつもりで、九郎は皆を順番に見た。
まあ、しっかり目を合わせてきたのは、四郷と神原だけだったが。
「誰だって死ぬのは嫌だろうし、実際、その危険もある。計画の内容からして、危険度はかなり高くなるだろうから。なら、ためらうのは当然だ。俺達は今しばらく情報を収集するから、気が変わったら電話くれ」
そう言い放ち、九郎は自分のスマホの番号を教えた。
「いつまでスマホが通じるかわからないから、電波切れしたら、最後にもう一度、ここへ覚悟を聞きにくる。もし仲間として加わり、攻撃に参加するなら……武器もこちらで用意するさ」
言いたいことを全て告げると、九郎は立ち上がった。
同時に、ユウキとルイも席を離れた。
「それまで、ひとまず俺達は失礼するから」
「えー、もうかい?」
長髪の神原が残念そうに、ルイとユウキを見比べた。
「お二人とお近づきになりつつ、夕飯を一緒にと思ったんだが」
「――悪いんだが」
さすがに少し顔をしかめ、九郎は彼を見つめた。
「ルイは元娘だし、ユウキは俺のファミリアでね。男女的なアレなら、まず俺を通してくれ」
中学生とは思えないことを述べると、九郎は本当に歩き始めた。
その背後から、嬉しそうに尻尾を振りまくるユウキと、頬を赤くしたルイが従っているが、九郎は振り返らない。
……まださほどの時間は過ぎていないが、律儀な麗が未だに連絡してこないのが……少し気になっていたのだ。
こちらにも一応、告知。
1話完結の、お試し的な短編「ゲーム世界で勢力拡大」を書いたので、興味ある方はよろしくです。