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女教師にして使い魔

 それでも結城ゆうき先生の視線が痛いので、知らぬうちに返事はしていた。


「いえ……まあ、某アイドルと出会ったことがきっかけで、俺の出自に関する、奇妙な話なら聞きましたけど」


 霧夜麗きりや れいの名前は伏せて、最低限の事実だけは話した。

 隣室に住んでいたアイドルが、なぜか九郎を知っていて――互いの、ちょっと不思議な身の上話をした……その程度の内容だ。

 この段階で「実は俺、魔王だったらしいっす!」とかぶちまけるのは、九郎としては遠慮したかったのである。


 まだ、自分自身も信じ切れていないのだし。

 ところが先生はどうも、最初からお見通しだったらしい。






「あの子……つまり、霧夜麗が話しましたか。迂闊なことです」


 忌々しそうに言った挙げ句、「ちっ」と微かに舌打ちまでした。

 どうも、先生と霧夜麗は顔見知りで、しかもあんまり仲はよくないらしい。


「我が君……しばし、こちらへ」


 先生は周囲を見渡し、素早く空き教室へ九郎を誘った。

 少子化の影響で不要になった部屋なのだが……そこへ入ると、なぜかぴしゃりとドアを閉め、窓際まで九郎を導いた。


「……あの少女には言いたいことも多々ありますが、しかし逆に考えれば、これは好都合かもしれません。少なくとも……ユウキは自分の正体をようやく告げることができて、嬉しゅうございます」

 はにかんだように微笑むと、先生はその場で土下座して、こうべを垂れた。


(ヤバいっ)


 今回は心の準備ができていた――とも言えないが、少なくとも二度目なので、九郎も足をどけるのが間に合った。

 実際、先生は素早く上履きにキスしようとしたのだ。

 麗が気に入らないような口ぶりだったくせに、やろうとしたことは同じである。


「待った! 上履きにキスとか、やめてくれっ。じゃなくて、やめましょうっ。埃まみれだし、汚いでしょうがっ」

「我が君のお召し物が、汚いはずありましょうか」


 土下座……というか平伏したままで先生が言う。


「それに、このユウキはもったないなくも、我が君のファミリアでございます。正統なる主人に忠誠を示すのは、当然のことかと」

「ゆ、ユウキって、名字じゃなくて名前だったっすか」


 九郎は頭がくらくらしていたが、これまた二度目なので、前より多少はマシだろう。

 少なくともいろいろ考える余裕はあった。

 ファミリアというのはおそらく、「家族的な関係」とかいうトンチキな意味ではなく、この場合は「使い魔」を示す用語の気がする。


 しかし……まさか、タイトスカートが似合いすぎる純白スーツの女教師が、二人目の関係者で使い魔とはっ。


「いや、よくよく考えたら、麗の後なら納得できないこともないか」


 九郎は髪を掻き混ぜながら呟く。

 アイドルが信奉者で元王女だったなら、教師が使い魔でも、そう驚くほどのことではない。

 今から思えば、なぜか結城先生は、クラス替えにもかかわらず、中一から中三までずっと同じく担任だった。


 それに、九郎がモロに赤点をとった時も、後からこそっと職員室へ呼ばれ、答案用紙を前に「敷島君、ここは本当はこう書こうとしていたんじゃないの?」と優しく指摘され、先生自らの手で答えを変更してくれたりした――こともある。


 九郎は「最初の赤点だから加減してくれたのだろう」と脳天気にも思っていたが、あいにく他のクラスメイトにそんなサービスはなかった。

 それに、彼女が担当する数学では、九郎は難しい問題を当てられたことが一度もない。おまけに一週間に一度くらいは「なにかあったら、先生に相談してね」とこっそり言われていたし、思い当たることは多いのだ。


「となると……もはや俺の出自に、疑う余地はないのか」


 独白した後で、まだ先生……いや、自称ユウキが土下座していることに気付き、九郎は慌てて手を差し伸べた。


「とにかく、立ってください」

「ありがとうございます」


 そっと手を握られて、ユウキがそろそろと立つ。


「ところで……少しお話しがあります、我が君」


 上目遣いで告げたセリフには、どこかうれいが含まれていた。

 まさか、早速なにか問題だろうか。


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