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抵抗軍?


 まあ、話があるなら聞いてやるくらいは問題ない。

 追っ手がかかっていないのをもう一度確認し、九郎は男――青年くらいの年頃の男に声をかけた。


「話はここじゃないと駄目か? 一応追われてはいないようだが、少し離れたいんだが」

「わかってる! そこに車があるから、乗ってくれないかっ」


 彼が車道の方を指差す。

 なるほど、ワゴン車が一台、エンジンをかけたまま止まっていた。いざという時は飛んで逃げられる九郎達だが、まあ車でもいいだろう。


「よし、みんなお言葉に甘えよう。ただし麗は、自分の身体の回収に向かってくれ」


 ポゼッションの後、麗の元々の肉体には(本物の)エイレーンの魂が入っている。

 元軍人の彼女が余計な気を起こしても困るので、眠らせた末に、この近くのマンションに隠してあるのだ。


「なにかあったら、スマホで連絡するよ。……誰かもう一人つけようか?」

「いえっ」


 麗はルイとユウキの方を見もせず、きっぱりと言い切った。


「お心遣い、ありがとうございます。では、今しばらくおそばを離れさせて頂きます」 

「うん。麗も十分注意してくれ」


 そんなことをする気はなかったのに、九郎は麗の右頬にそっと触れてしまった。嬉しそうに麗が目を細める。


「はい……身体を取り戻したら、すぐに戻りますわ」


 深々と一礼し、麗が一人で走り去った。

 九郎が青年の方に注意を戻すと、彼は青い顔でユウキを見ていた。

 ワゴンの周囲を点検している彼女を見て、不気味に思ったらしい。


「こ、この巨大狼も助っ人なのはわかるが……人間の言葉は通じるのか?」

『通じますよ、失礼な』


 九郎より先に、ユウキ自身がプリプリして答えた。

 あまり人間らしくない声音だったが。


「しゃ、しゃべった!」


 お陰でよけいに相手が怯える始末である。


「はっは。大丈夫だから、安心してくれ。無敵のファミリアだが、心はお釈迦様より寛大で優しいからな……まあ、少なくとも一部の相手には」


 ユウキが嬉しそうに尾を振るのに笑いかけ、九郎は逆に尋ねた。


「俺も後ろでいいか?」

「あ、ああ」


 青年は引きつった顔で頷いた。







 ワゴンの後部座席は、軍用車両かと思うような構造になっていて、腰掛けるベンチが向かい合わせで設置されていた。


 しかしどのみち、九郎を挟んでユウキとルイが左右についてしまい、対面のベンチには青年が一人で座った。ドライバーは彼の仲間らしい。

 薄いセーターとジーンズという格好の青年は、ワゴンが走り出すと同時に、九郎に低頭してみせた。


「あんたが代表かな? 助けてもらって感謝してる」

「あんた!? おい、貴様は誰に向かってものを言ってるつもり――」

「いいから、ルイっ」


 立ち上がりかけた元娘を、九郎は慌てて止めた。


「時に、あんた達の用件は? ずっと捕虜だった割に、やたらと準備がいいが?」 

「そうだな……そのあたりの説明が先か」


 ざっと九郎達三人……特に、九郎の足元に座り込んだユウキをとまだ顔をしかめているルイを素早く見てから、彼は自己紹介した。


「僕の名は、四郷隼人しごう はやとという。……非力ではあるが、ささやかな数の仲間達と共に、抵抗軍を組織しようとしている者だ」

『俺はそいつの仲間で、神原かんばらなっ。よろしく!』


 運転席の方から陽気な声がした。

 四郷と名乗った青年は微苦笑を浮かべて両手を広げた。


「僕は元々、情報収集のためにわざと捕まっていて、いざという時はそっちの神原が救い出してくれる予定だった。結果的に、あんた達が先になったけど」


 四郷の説明に、九郎は軽い驚きを覚えていた。

 元より、そういう組織を作りたいという思いはあったのだが、既にもう下地が出来ていたとは。やはり平和慣れした日本人とはいえ、非常の際にはそういう動きも出てくるらしい。


「俺は敷島九郎で、こっちはルイ。狼はユウキだ……まあ、ファミリアなんで人間にもなれるけど。ところでさ――」


 目を白黒させている相手に、九郎はいきなり尋ねた。


「四郷さんだっけ? 情報収集のために捕虜になっていたっていうなら、さっきの広場を仕切っていた女戦士と、ヴァンパイアの二人について、何か詳しい情報を持ってないか?」


 勇者を自称していたらしい彼女は、リュクレールと名乗ったが、九郎がアーネストと戦っている最中、いつのまにか消えてしまった。

 それがずっと気になっていたのだ。

 もっと言えば……自分達が想像以上にあっさり逃げられたのも、九郎的にはだいぶ引っかかる。


 リュクレールとやらはやたらと切れ者に見えたし、その印象が誤りだとは思えない。

 そして、なぜかあいつのことが妙に気になるのも、不思議と言えば不思議だ。


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