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天に向かって唾を吐くようなものよっ

 彼女を覆い隠すほどの細長く白い針は、「お願いっ」という麗の一声で、まずは彼女自身の拘束を切断してから、そばにいた彼女付きの兵士を一瞬で倒してしまう。


 心臓と頭部をそれぞれ同時に貫かれており、その兵士は最後までなにが起こったのか、気付かなかっただろう。


 当然、他の針も一斉に広場内に散り、同様にして他の捕虜達の拘束を解こうとした。




 しかし――。

 今度ばかりは、麗の時のようにスムースにはいかなかった。

 突如、兵士や捕虜達に襲い掛かろうとした針が、見えない壁に阻まれたように、空中で動きを止めてしまった。


「――っ! おまえなのっ」


 漆黒のバトルスーツに、純白の髪という女戦士を見て、麗は倒れた兵士から奪った剣を構える。当然、魔導銃も一緒に奪い、軍服のベルトに挟んでいた。 


「当然、私ですとも。自分の力を過信するものではありませんよ。ただ、貴女があまりに素早くて、最初の犠牲者を防げなかったのは、残念でした」


 女は、麗の処刑役だった倒れた兵士を見やり、微かに首を振った。


「戦に犠牲を伴うのは当然ですが、あまり良い気分ではありませんね」

「そう。では、今からもっと良くない気分になるでしょうね」


 四方から増援の兵士が駆けつけ、麗に魔導銃を向けたが……麗本人は、落ち着いた表情を失うことなく、冷え切った笑みを浮かべた。


「おまえはなにもわかっていないわ。この麗は自らの力を誇ったことなど一度もない。そもそもこのノーブル・ローズ・ソーンは、元来が私のものじゃないのですもの。かつて、至高の存在たる魔王陛下より授かったギフトよ。……食い止めたと思うのなら、甘かったわね」


「負け惜しみを……私がそれを知らないとでも――まさかっ」


 言いかけた女兵士が、息を呑んだ。

 その後、鋭く叫ぶ。


「全員、捕虜のそばから離れなさいっ」


 彼女の命令と、未だに空中に留まったままだった麗の針がギギギッと音を立てるのが、ほぼ

同時だった。

 麗の針を防いだ不可視の魔力シールドが、ふいに空中に半透明の姿を現し、その全てに網目のごとく亀裂が入っていく。


 未だに前進しようとする針の群れを、押さえきれなくなり、シールド自体が貫通されかけているのだ。





「愚かな人っ」


 麗は天を仰いで両手を広げた。


「この麗の力のみなもとは、偉大なる魔王陛下その人よっ。己の矮小な力を、そちらこそ思い知るべきでしたね!」

「早く離れてっ」


 女戦士の声に従い、慌てて兵士達が支柱のそばを離れた瞬間、まさにシールドが破壊され、蛍火のごとく四方に散った。


 次の瞬間、麗の意志に従い、一瞬でほぼ全ての捕虜の拘束を断ち切ってしまう。


 後ろ手に拘束していたのは、縄ではなく金属製の拘束具だったのだが、絹糸よりもあっけなく切断されてしまった。


「一部とはいえ、以前よりも力が増していたとはっ」





「わかりきったことを!」


 麗は、両手を広げたまま、陶酔の表情を浮かべていた。


「おまえ達もいい加減に悟るがいい。この麗が仕えているお方が、いかなる存在かをっ。おまえ達のやっていることは、天に向かって唾を吐くようなものよっ」

「捕虜に発砲しては駄目っ。逃げるに任せなさい!」


 女戦士が、はやる味方を止めた。


「さもないと、真っ先に彼女の針にやられますよっ」

「で、では、せめてエイレーン陸士長本人をっ」


「待って、その子はそもそも別人――」


 女戦士の制止は間に合わなかった。

 途中から麗を抱囲していた兵士達が一斉に発砲し、魔導弾の華々しい光が、彼女一人に殺到していく。


 しかし、彼女の肉体を破壊する前に、全て見えない障壁によって弾かれてしまった。


『麗、待っていろ。すぐに助けるからなっ!』


 頼もしい九郎の声を脳裏に聞き、麗の瞳から歓喜の涙が溢れた。


「なんという……もったいなきお言葉。御身のためなら、この麗の命など、幾らでも捧げますわっ」

 それからぎらっと女戦士の方を見やる。


「せめて御身がおいでになるまでに、この女を倒しておきますっ」


 言下に、一番邪魔なバトルスーツ女に向かい、麗は自ら疾走した。

 


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