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あいつ、気付いてるわっ


 なぜ、このヴァンパイアに自分の秘密を話したのか、リュクレールとしては今でも不審なのだが、あるいはそれは、彼の邪気のない性格が大きいかもしれない。

 ふところも広く、どこか飄々(ひょうひょう)としていて、全くヴァンパイアらしくないのだ。




「時にリュクレール殿」


 アーネストがさりげない口調で話を変えた。


「撒き餌として配置した、そちらの女性兵士については、既にお気づきですかな?」


 言いつつ、彼はさりげなく制服姿の受刑者の方を見た。

 聞いただけでは、なんのことだかわからないはずだが、リュクレールには大いに思い当たるところがあった。

 なぜなら、彼が言う撒き餌は、他でもない自分が配置するように命じたものだからだ。


(ただ強いだけじゃなく、なかなか有能な方ですね)


 心の中で、さらにアーネストへの評価を加点しつつ、リュクレールは微笑した。


「ご心配なく、いかにギフトがあろうと、私の感覚はそう簡単にごまかせません」

「ほほうっ。さすがは勇者と呼ばれるだけのことはありますな」


 大仰に感心する彼を置いて、リュクレールはゆっくりと駅舎の外へ出た。


「そろそろ、『彼女』をからかってみましょう。あの方もかなり聡い人ですから、私の意図を見誤らないはずです」






 処刑予定の五十数名の中で、唯一のハイランド帝国人であり、軍の士官でもあるエイレーンは、支柱に拘束されたままの姿勢で、常に俯いて動かずにいた。


 ……本物のエイレーンなら、こういう時にはどうしただろうかと考えるべきかもしれないが、今はとにかく、バレずにタイムリミットまで過ごすことが全てに優先する。


 実は、本物のエイレーンは、既にここにはいない。


 この広間に連れてこられる寸前に、ポゼッションによって麗と入れ替わっている。

 最初にやりあった時に九郎が彼女に施した魔力的な印のお陰で、ポゼッションは極めてスムースに済み、麗は今、こうしてエイレーンに成り代わっている。


 ここまではほぼ予定通りだったが、気に入らないことが二つあった。

 バトルスーツを着込んだ真っ白な髪の女と、マントにシルクハットという、場違いな格好をした金髪男の存在である。


 どちらも異色だったが、麗は特に女の方が危険度が高いと直感していた。

 見たところ将校でもない癖に、あいつはどう見ても、この場にいる将兵全てを仕切っている。実質的な指揮官らしいが、どういう立場の女なのか、さっぱりわからない。


 まあ素性が謎なのは、ステッキ男の方も同じだが。


(エイレーンから得た情報に、あんな連中の情報はなかったはず。しかし、あの女士官が九郎さまのフォースルールに抗えたはずはない。つまり……エイレーンの知識にもない、軍の要人の可能性がある)


 自分のためではなく、九郎のために排除しておきたいところだが、救出作戦の遂行の方が先だろう。

 だからこそ、麗も目立つ行動は控え、あくまでも九郎の行動開始の合図を待ってから、動くつもりだった。


 ところが――どうやら、そんな場合ではないらしい。


 というのも、予定時間まであと十数分となったところで、ふいに駅舎の中に引っ込んでいたバトルスーツ女が出てきて、真っ直ぐにこちらへ歩いて来たのである。

 俯いた状態のまま、麗は横目で女の方を見やる。


(そろそろ時間なので、早めに出てきた? いえ、違うわっ)


 脇目も振らず、エイレーンならぬ麗の方へやってくる、その自信に満ちた歩き方はどうだ……しかも、口元に微かな笑みまで刻んで。


 ――あいつ、気付いてるわっ。


 この瞬間、麗は確信した。疑う理由としては弱いことはわかっているが、麗とて前世では何度も死線をくぐった身である。

 こんな時こそあえて自分の勘を信じた方がいいことは、身に染みて知っていた。


(九郎さまのご計画を邪魔させるわけにはいかないっ)


 緊急時故に、自分の行動開始を持って、作戦スタートの合図とする他はないっ。

 麗はさっと顔を上げると、いささかの迷いもなく、ギフトを発動した。


「ノーブル・ローズ・ソーン!(高貴なる薔薇の棘)」


 途端に、細長い針のようなものが、彼女の周囲に無数に出現した。


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