この世界の強者と戦ってみたいですしな
受刑者を拘束するための支柱は、秋葉原駅の「電気街口」と呼ばれる改札前に、夜の間に全て立て終わっていた。
駅舎を出たそこは、ちょっとした広場のように開けていて、見通しがいい。
道を挟んだ先にUDX(複合ビル)を臨む場所だったが、今や広場には等間隔で支柱が立ち、それぞれ受刑予定者が拘束されている。
片隅にはテレビカメラも設定されていて、この処刑を全国中継する予定だった。
受刑者の9割9部は帝国軍の活動を妨害した現地日本人で、人数は総勢で五十名を超えている。
最初、大声で自分の無実を訴える者もいたが、兵士の誰も相手にしないので、既に黙り込んでいた。
十三時の執行予定になれば、それぞれの支柱に一人ずつ処刑人がついて、受刑者の頭を魔導銃で撃ち抜くことになっている。
「昨晩も含めて、なにか問題は起きていますか?」
執行半時間前に着いた勇者と呼ばれる少女……つまりリュクレールは、立哨中の兵士に尋ねた。
「いえ、特に何も起きていません。夜間も警戒は怠っていませんでしたが、誰もここへ来ませんでした。勇者――し、失礼しました、リュクレール殿!」
薄赤い瞳で見られ、警戒中の兵士は慌てて訂正した。
「私は軍属ではないので、今後もその呼び方でお願いしますね」
リュクレールは優しく言い聞かせ、頷く。
「りょ、了解でありますっ」
「ご苦労様です」
バトルスーツ姿の彼女を赤い顔で見つめる彼の元を去り、リュクレールは駅舎内の改札口あたりまで下がった。
テレビに映るのはやむなしと言えども、早い内から目立ちたくない。
ここなら、駅舎の屋根もあるし、あまり人目につかないだろう……と思ったが、ふいに横に気配が生じて、マントを捌く音がした。
「早いですね、アーネストさん」
リュクレールは、そちらを見る前に先に挨拶する。
「魔王とやらに会えるとあれば、それはもう」
アーネスト・D・ヴァランタインと名乗った、ヴァンパイアの真祖を自称する彼は、大仰に一礼してみせた。トレードマークだった髭はすっかり剃られていて、前に見た時より若々しく見えた。
ただその他は、マントとステッキに加えてシルクハットまで被っていて、まさにヴァンパイアの正装といった外見である。
「私の要請を聞き入れてくださり、嬉しく思います」
向き合ったリュクレールが低頭すると、彼は面映ゆいような表情で彼女を見た。
「いやいや。流れ者の我が輩に正直に話してくださり、こちらこそ感謝に堪えない。我が輩がこの世界に迷い込んだのは、貴女のためではないかと思っているところです」
長身の彼は、大真面目な顔で言ってのけた。
「とはいえ、我が輩は我が輩で大いにやるべきことがあります。いずれ、元の世界へ帰るつもりですが、せっかく来たのですから、この世界の強者と戦ってみたいですしな。故郷では、既に我が輩の敵はおりませんで……いささか退屈しておりました」
「アーネストさんの世界には、魔族を統べる者はいないのですか? ヴァンパイアがいるなら、当然、他の魔族もいるはずですが」
ふと興味が湧き、リュクレールは尋ねてみた。
「無論、魔族は多いですが、全てを統べる魔王と呼ばれる者はおりませんなぁ。故郷では、魔族の頂点に立つのは我がヴァンパイア一族ということになっていますが、それとて、別に王は名乗っておりません。だからこそ、興味があるのですよ」
少年のように目を輝かせ、彼は言う。
「魔族全てを統一し、さらに他の人間世界まで制した魔王とは、いかなる存在なのかと」
「すぐにわかるでしょう……そう、あと二十分ほどで」
リュクレールはにこやかに応じた。
「ただ、彼と戦うのはいいですが、殺したりしないでくださいね」
「心得ておりますとも」
ヴァンパイアの真祖は、複雑な表情でまた一礼した。
恋愛物で、何話か連載予定してます。
相手は人間じゃないですが(汗)。
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僕のヴァンパイア(仮)
よろしければ、どうぞ。