俺を倒す算段が付いているわけだ
ほとんど森川が一人で作ってくれた、豪華夕食を頂いた後、九郎達は隠れ家を出て秋葉原へ向かった。
森川も一緒に来たがったが、さすがにそれを口にして九郎を困らせるようなことはなかった。
「行ってくる」
出る前に、九郎は森川の手を握ってわざと明るい笑顔を見せた。
「前にちょっと話した通り、森川の護衛に、新たなファミリアを待機させてるから、安心して待っててほしい」
「ええっ」
森川の代わりにユウキが声を上げた。
「新たなファミリア!? わ、私は聞いてませんがっ」
「いや、別にユウキの許可はいらないだろう」
九郎は玄関口で苦笑して返した。
「創造魔法は久しぶりだが、まあこれは必要なことだからな」
「新型ファミリア登場で、哀れユウキは、オールドファッションのド旧型に成り下がったな」
さっきの恨みか、すかさずルイが皮肉を言う。
というか、麗もぐさっと来る一言を畳みかけた。
「我が君唯一のファミリアの座も、儚く消えましたねー」
「なんですか、貴女達はっ」
たちまち膨れたユウキが、二人を睨む。
「特に麗さんっ。天罰で、儀式が失敗しますよ!」
「麗の神は九郎さまなので、九郎さまがお叱りでなければ、全然関係ありませんわ」
言い争う三名を置いて、九郎は森川の手をようやく離した。
「じゃあ、明日戻るから。戻れなきゃ、連絡する」
「はい……待ってますね」
名残惜しそうに森川が告げてくれた。
立ち入りを禁じられている秋葉原までは、どうせ交通機関は使えない。
そこで、三名とも飛んでいくことにしたが、九郎と麗が二人してギフトのシークレットガーデンを発動させ、ユウキとルイはその恩恵に預かることとなった。
「秋葉原まではすぐだが……このギフト、どこまで確かかな?」
「少なくとも、麗が授かって以来、シークレットガーデンで際どい思いをしたことはありませんっ」
暗い夜空を飛びつつ、麗が頼もしいことを述べてくれた。
「そうか……でもまあ、明日の午後一時……つまり、十三時だったか? その時にはさすがに使い処を考えた方がいいだろうな。処刑場とやらが駅周辺のどこかはまだ不明だが、もし本当にこれが罠なら、あちらさんは、俺を倒す算段が付いているわけだ」
九郎が独白すると、ユウキ達がそっと顔を見合わせた。
「しかし、父上には絶対支配空間とも言える、攻防一体のギフト『サンクチュアリ』があります。アレをそう簡単に破れるとは、思えませんが?」
「それが本当かどうかは、明日になればわかるさ。――待機場所はあそこにするか?」
いつもの秋葉原よりずっと薄暗い街並みになっていたが、それでも眼下にUDX……レストランやオフィスが詰める、複合ビルを見えてきた。百メートルを超える高さの高層ビルだが、今はいつもより各窓から漏れる明かりがごく少ない。
「レストランはどうせほとんど閉店中だろうし、会社オフィスもそうだろう。問題があるとしたら、連中がなにかに使ってないかだが……降下して、まずはそれを確かめよう」
「了解です!」
ユウキが張り切って述べた。
空調の室外ユニットが整然と並ぶビルの屋上に、九郎達は急降下していく。
「麗、落ち着ける部屋が見つかったら……悪いが、待機してタイムスケジュール通りに頼む」
「お任せを」
並んで降下しつつ、麗は微笑した。
「時計も持参していますし、時刻厳守でいきます……九郎さまのお役に立てて、嬉しゅうございます」
決して楽しくない役割のはずなのに、麗の笑顔に陰りはなかった。九郎のためだからというのは、どうも本気らしい。
九郎はそっと麗の腕に触れ、感謝を示した……いつか埋め合わせをしようと思う。