表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/96

お目覚めになったのですか、我が君?


「覚えてないのか? 霧夜麗はアニメキャラ寄りの当たりだとか、ドレスがすげーとか、明るい子でダンスも完璧とか褒めまくってたぞ、おまえ。挙げ句の果てに、『こういうファン活動は、アニメと違ってお互いにひっそりと楽しもうぜ!』とか、わけのわからんことを――」


 言いかけ、九郎は途中で気付いた。

 ……軽薄さが服着て歩いているようなこの山岡が、そんな殊勝なこと言うのはおかしい。

 いや、当時も微かに疑問に思ったのだが、今になって余計にそう思う。


「おまえこそ、わけわからんこと言うなって」


 山岡自身が呆れて指摘した。


「俺がそんな地下活動じみたことするかって。どうせ応援するなら、クラス中に広める勢いであちこちしゃべりまくるし、おまえとだって語り合うに決まってるだろーが」

「そう……だな。そりゃ、そうだ」


 ひょっとして、これも麗の得体の知れない力かもしれない。

 ようやく、九郎はそこに思い至った。

 だいたいあの子(麗)が魔王に助けを求めたのは、彼が魔界を統一した直後だったと言ってたはずだ。にも関わらず、その後何百年も一緒にいたようなことをほのめかしていた。

 となると、麗はもはや普通の人間ではないかもしれない。


「……チャームとか、そんな力かね」

「なんだそれ?」


 山岡が身を乗り出した。


「もしかして、封神○義がまたアニメ化するって話のアレか? コミックで、妲己がチャームみたいな力、使ってたよな、なっ」

「む、無駄に詳しいな、おまえ……しかも、ネタが古いし」


 我に返り、九郎は首を振った。


「だが、その話じゃない。だいたい、俺が今関わっているのは、さらに危なそうな話で――」



「どんな危ない話かしら?」



『わあっ』


 いきなり背後から声をかけられ、九郎と山岡は揃って声を上げた。

 振り向けば、いつの間にか二人の後ろに担任の結城先生が立っていて、笑顔で見下ろしている。今更のように香水の香りが漂ってきた。


「ま、まだHRの時間じゃないはずです……が」


 ワンレン風にまとめた長い髪を颯爽と掻き上げる先生に、山岡がしどろもどろで言い訳する。


「別に叱りに来たわけじゃないですよ。安心して」


 いつもの慈悲深い声音で言われ、これまた二人同時にため息が洩れた。


「ただし、敷島君はちょっと先生と来てね」

「え、俺!?」


 九郎はびっくりして自分の顔を指差す。


「もうすぐHRなのに?」

「そう。HRなんか、もうどうでもいいのよ」


 信じられないことを言うと、結城先生はぐるりと周囲を見渡して声に出した。


「HRは自習とします。先生はちょっと、私用ができましたから」


 はっきりとそう告げ、素早く九郎に目配せしてきた。

 話があるというのは、マジらしい。


「おまえ、なにしたんだよ? もしかして、停学? 停学沙汰かっ」


 嬉しそうな声でのたまう山岡に顔をしかめて見せ、やむなく九郎は先生に続いた。なにしろ、もう一人でさっさと先へ歩いて行くのである。 

 生徒の立場としては、ついて行くしかない。


 ちょうど、教室を出たところでHR開始のチャイムが鳴り響く。

 廊下もたちまち閑散としていって、周囲には誰もいなくなってしまう。


 そのタイミングを待っていたかのように、結城先生はふいに立ち止まった。

 振り向いて、意味ありげな顔で九郎を見やる。大人びた瞳が大真面目に見つめてきて、九郎はさすがに戸惑ってしまった。

 次の瞬間、先生は驚天動地なことを述べた。



「……お目覚めになったのですか、我が君?」



 すぐに返事ができるはずもなく、九郎は絶句した。

 なんで先生がっ。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ