公開処刑告知
麗の声に、全員の目が点けっぱなしのテレビに向く。
気を利かせた麗が、リモコンで声を大きくした。
途端に、嫌みなほど冷静な声が聞こえた。
『――繰り返す、私は侵攻軍総指揮官フェリクス・レオンハルトだ。この放送を使い、都内在住の諸君に知らせたい』
スタジオらしき場所で、マイクを持って突っ立った偉丈夫が、ぼそりと述べた。
占領軍の軍人に多い金髪碧眼だが、生真面目そうな中年風の男である。ただし、帯剣しているわ魔導銃も腰にぶちこんでいるわで、重武装だった。
『明日、我が軍の地上拠点の一つである秋葉原駅前で、軍の治安維持活動を妨害した民間人複数と、遺憾ながら同朋を裏切った我が軍の士官一人を、公開処刑に処す。時間は午後一時。現場に出向くことは許さないが、テレビ中継されるので、希望者は見て構わない』
九郎達が顔を見合わせていると、画面の中では彼がため息をついてから続けた。
『なお、我が軍の士官をあえて同じ公開処刑の場に晒すのは、我が帝国軍の公平さを示すものである。……以上!』
そのまま、画面は暗くなってしまい、「しばらくお待ちください」のテロップのみが出た。
「言ってるそばから、大物が出てきたなあ。どうせ同朋を裏切った士官ってのは、エイレーンのことだろうけど。……あの総指揮官について、誰か何か知ってる?」
九郎が皆を見ると、ルイが教えてくれた。
「叩き上げの士官で、皇帝が目を掛けて今の地位までのし上がったらしいですね。一時は、魔族領への攻撃部隊も指揮してました。いずれ、首を刎ねてやろうと思っていたんですが、こっちの侵攻軍の方へ転属になっちゃって」
本気でそう思ってたのか、ルイは心底悔しそうに言う。
「なるほど……日本人としての意識だと、『公開処刑とか、どこの未開の国だよ』と思うけど、別にフォートランド世界では、よくある話なんだよな……ただし、告知がやたらと唐突だけど」
考えながら九郎が述べると、麗が身を乗り出した。
「九郎さま。先程、そこの女性がほのめかした通り――」
「森川薫子だよ」
九郎はいきなり割り込んだ。
森川の肩にそっと手を置き、麗に頼んだ。
「紹介する暇もなかったけど、改めて頼む。森川は麗のことを『麗ちゃん』って呼んでたから、そっちは『薫子ちゃん』って呼ぶのはどうかな? 嫌か?」
双方を見比べたが、麗はなんとも言えぬ複雑な表情を見せ、森川は俯いてしまった。
ただし森川は、「わ、わたしはいいけど、麗ちゃんが」などとボソリと呟く。
「森川は構わないって言ってるけど……」
あえて懇願するような目つきで水を向けると、やや引きつった笑顔ながら、麗も頷いた。
「薫子……ちゃんがそれでいいなら、麗も異存ありません。それで、公開処刑の件ですが」
ささっと話を戻してしまう。
「薫子ちゃんが指摘したように、これは本当に罠かもしれません。公開処刑は確かに帝国のお家芸のようなものですが、それにしても自軍の士官も同時にとは、少々納得できかねます」
薫子ちゃんの部分が棒読みだが、九郎はあえて指摘しなかった。
そのうち慣れてくれるだろう……多分。
「そうだな、確かに俺への罠かもしれない」
森川が先に指摘しなければ、案外誰も疑わなかったかもしれないが、一旦「罠の可能性も有り得る」と考え出すと、途端にもの凄く怪しく感じるから不思議である。
「正直、向こうがエイレーンを処刑する可能性を、だいぶ低く見積もっていた。後で彼女本人にコンタクトしてみるが。別にこれ、エイレーンだけの問題じゃなくて、他の捕まった日本人も殺されちまうんだよな」
となると考えるまでもなく、九郎的に座視はできないわけである。
こればかりは「自分でなんとかしろ」とも言えない。
「まだ時間あるし、まずは駅前まで偵察に行こう」
そこで空腹だったのを思い出し、九郎は付け加えた。
「もちろん、腹ごしらえしてから」