父上が鉄槌(てっつい)を下さないのですか?
ここ数日、九郎の日常は慌ただしく過ぎた。
最初に片付けたのは、森川の相続問題で、九郎に言わせれば「都内がこんな状態の今、どこまで平和ボケしてるんだ!?」となるのだが、それでも放置しておけばどんどん森川に不利な方へ事態が動く。
やむなく九郎は、自分のギフトを用いて、さくさく解決した。
それでも、全ての親族と関係者を回るのは大変だったが、森川のためだし、以後は二度と連中と会わずに済むと思えば、それくらいは我慢できる。
とはいえ、ギフトを使う相手が心底森川に愛情を持っていれば、さすがの九郎も簡単にいかなかったかもしれないのだが……幸か不幸か、そんな親族は一人もいなかった。
結果的に、強引なやり方ながら問題は片付き、森川は晴れて行動の自由が確保された。
他にも細々した問題がまだ残ってはいるものの、都内の状況が状況なので、福祉関係者などが森川を訪ねてくることは、当分ないはず。
最初に出現した時、あの艦隊が国会議事堂を破壊し尽くし、文字通り都内の行政を麻痺させてしまったので、お役所関係は軒並み機能を停止しているからだ。
物理的に国会を破壊しても、政治家で生き残っている者はまだ少なからずいるし、封鎖された都内の外では、まだ日常が営まれてはいるだろう。
しかし、都内をドーム状のシールドで覆い尽くしたこの有様をナントカしないことには、外との連携など望めない。
生き残りの政治家も手をこまねいてばかりではないと思いたいが、今のところ、都内の状況が改善された予兆はまるでなかった。
「というわけで、作戦会議的なものを行いたいと思う」
九郎は仲間を隠れ家のリビングに集め、厳かに宣言した。
森川関連で自分が走り回っている間、ユウキ達には敵の動きや都内の情勢などを探ってもらっていた。
その報告も聞いておかねばならない。
現状を十分に把握した上で、対抗策を練るつもりだった。
向かいのソファーに嫌そうな顔で麗と並ぶユウキを、まずびしっと指差した。
「最初にユウキ、敵の動きは?」
「あ、はいっ」
横目で麗を睨むのをやめ、慌ててユウキが居住まいを正す。
なぜかいつものブレザー制服に加え、両足に黒ストッキングまで穿いていたが、これは森川の真似をしたのかもしれない。
「最新の情報ですけど……敵は、小部隊で都内の巡回を始め、不法に破壊活動を続ける者達を鎮圧すると同時に――しきりに『帝国臣民証』を受け取るように呼びかけています」
「帝国臣民証? なんだ、そのめんどくさそうなブツは?」
「どうも、帝国の臣民であることを証明する証書のようなもので、これを受け入れれば、配給の食糧を与えると……そういうことのようですわ。都内封鎖のお陰で、全ての流通が途絶え、今は食料が不足していますから」
「なるほど、兵糧攻めみたいなものな。……それはむかつくが、各商店を破壊したりする馬鹿共を取り締まり始めたのは、褒めてやるべきかな?」
「それが……いちがいにそうも言えないのです」
ユウキは憂鬱そうに首を振った。
「敵は確かに、店舗などを破壊する者達を取り締まり始めましたが、個人の家を襲う方は、帝国市民証を受け入れた家庭以外は、取り締まっていません。暴徒が襲うに任せています」
「皇帝とやらは、道理の見えぬ奴だなっ!」
九郎より先に、左隣に座るルイがすぐさま立ち上がった。
ちなみに今やルイも、ノースリーブのシャツとミニスカートという姿になっている。麗と違うのはショートパンツがミニスカートになっている、ということくらいだ。
ひょっとして、この子も麗を真似しているのではないかと九郎は思っているが。
「いやしくも皇帝を名乗るなら、まずは支配している臣民を安堵させるべきだろうっ。占領活動中なら、なおさらのはずだっ」
「ま、まあまあ」
感情の発露が素直すぎるルイに、九郎はかえって自分が冷静になってしまった。
「皇帝の命令じゃなく、艦隊指揮官の命令かもしれないさ。……ともあれ、俺達は当初の予定通り、戦う意志を継続する連中を援護するか」
「父上が鉄槌を下さないのですか?」
不思議そうにルイが尋ねた……まだ立ったまま。
「ウルト○マンの真似をする気はないね」
我ながら不機嫌そうな声が出た。
「前にも言ったが、そんなことに意味はない」