その決心は変わってないんだと思う
地下の住居区画に着いた後、九郎は本当に一室を借りて、森川とようやく二人きりになることができた。
ユウキ達には捕虜の尋問を頼んで、遠ざけてある。
さすがにみんなの前で堂々と話し合える内容ではなかったからだ。九郎が森川の立場なら、絶対にごめんである。
それでも、未練がましくユウキが二人分の紅茶を持ってきたりしたが、九郎はユウキがいる前ではあえて話さなかった。
忠実な彼女が出て行ってから、ようやく身を乗り出したほどだ。
小さなテーブルを真ん中に置き、向かい合って座っていることに緊張するのか、森川は未だに俯いたままである。
両手を膝の上に置き、かちんこちんの姿勢だった。
「……この部屋、どうやらユウとしては、俺の娯楽室のつもりらしいな」
少し気分を軽くしてあげようと、九郎はわざとらしく部屋の中を見る。
「隅っこに置かれたこのソファーセット以外にあるのが、テーブルと椅子のセットが数組に、それぞれゲームマシンだし……はははっ。そういや俺、担任が自分のファミリアだと知らなかった頃、ゲーム好きだと話したことがあるよ。それを覚えててくれたらしい」
「ファミリア……使い魔ということ?」
ようやく、森川が反応した。
ファミリアという語句は、もう何度か聞いているだろうが、これまでは質問するような余裕がなかったのだろう。
「ああ。まあ……本題に入る前に、ざっと事情を説明しておくよ」
九郎は居住まいを正し、アイドルの霧夜麗と廊下で会ったところから始めた。
……半時間ほどかかったが、要点は全て話した。一切隠さず、全部。
自分が、元々はこの世界の人間ではなく、かつてはフォートランドと呼ばれる世界を制覇した魔王だった――という部分を話すのは勇気がいったが、既にその片鱗を見たせいか、意外にも森川は落ち着いて聞いてくれた。
全てを話し終え、九郎が少なからず緊張していると、一拍置いてからようやく森川が口火を切った。
「わたし、敷島君が霧夜麗ちゃんのファンだったって、知ってたよ」
森川は――見ている九郎が不安になるほど、優しい笑みを広げた。
「山岡君に教えてもらったから。そのせいで少し悩んだけど、やっぱりちゃんと告白しておかなきゃと思って」
「いや、もちろんそれは嬉しいのさっ」
情報ダダ洩らしの友人への愚痴は省き、九郎は慌てて手を振る。
「だいたい麗は、自分で俺にはふさわしくない的なことを前に言ったことがあるし、森川が思うほど熱烈な関係でもないんだな……」
言い訳がましかったが、これは百パーセント、九郎の本音である。
「そうなの?」
初めて森川が納得できない表情を見せた。
「ずっと見ていたけど、麗ちゃんは敷島君の方ばかり見ていたわ。ものすごく愛情の籠もった目つきで。わたしと同じくらいかも」
なにげに、どきっとするセリフだった。
「そ、そうかぁ? しかし俺、前にからかい半分でプロポーズする気かと訊いたら、あっさり『麗ごときにそのような資格はございません』と言われたんだがな……マジだぜ?」
「それはなにか事情があったからでは? それに、あのルイさんも含めて、みんな敷島君が好きなんだと思う」
森川がなおも粘ったが、九郎は苦笑して首を振った。
「今、この話はやめておこう。真面目な話をするつもりが、すっかり脱線した」
もう予感があるのか、またしても森川の緊張がぶり返したようだったが、九郎は今度こそ、遠慮せずに切り出した。
これは絶対に避けて通れない話なので。
「はっきり言うけど怒るなよ」
前置きの後、ずばっと指摘する。
「おまえ……告白後に、そのまま自殺するつもりだったよな?」
森川が息を呑んだのがわかったが、九郎はあえて続けた。
「いや、おそらく今だって、その決心は変わってないんだと思う」