フォースルール(強制支配)
止めようと手を伸ばしかけたまま、九郎は顔をしかめる。
やむなく、自分も森川を庇いつつ突入するかと思ったが、なぜかユウキ達の声がして、たたらを踏んだ。同時に、ガンッという金属音がして、吹っ飛んだドアが横の壁にぶち当たって床に落ちてしまった。
「九郎さまっ」
「我が君!」
玄関口で見れば、麗とユウキの二人が揃ってこちらを見ていた。
特に、女子高生姿のユウキは左肘を立てて構えていて、どうも今し方の激突音は、彼女が自分に向かって飛んで来たドアを、剛毅にも肘で跳ね返した音らしかった。
逆に言えば、普通の人間だったら飛んで来たドアにやられて、今頃は大怪我を負っていたかもしれない。
「……ただいま」
憮然として眉根を寄せるルイの脇を通り、九郎はほっと息を吐く。
なんのことはない、侵入者と思われる兵士達数名は、既に床に座らさせられ、武装解除されていた。
総員八名ほどだが、驚いたように九郎達を見つめている。
「なんだ、もう麗達が制圧しちまってたのか」
「今、ちょうどお電話しようとしていたところです」
迷惑そうにルイを睨んでいた麗が、手にしていた携帯を見せてくれた。
「ドアが吹き飛ぶまで気配を全く感じなかったので、驚きました。……シークレットガーデンでしょうか?」
「うん。前に麗に授けたギフト、自分でも思い出したんだ」
ついでに、胡乱な目つきでこちらを見る敵兵達を、うんざりと眺めた。
「こいつらって、俺の飛行を察知してきたのかな?」
「おそらくは」
「やれやれ……あ、そうだ」
ずっとギフト発動中だったのを思い出し、九郎は今更のように解除する。
魔力消耗を全然気にする必要がないと、常時発動中でもそのまま忘れてしまうことがあると思い出した。すると、ギフトを解除したお陰でようやく九郎達をしっかり認識できた敵兵共が、にわかに騒ぎ始めた。
「ほ、本当に子供だぞっ」
「まさか、情報通りだったとは!」
「それにしても、ファミリア以外にもこいつの仲間がいたなんてっ」
「――静かに!」
九郎がじろっと睥睨すると、たちどころに雑談が止んだ。
女性兵士の一人が「イビルアイよっ。あいつの目を――」と叫びかけたが、大声を出して目を逸らした自分も、途中から等しく表情を失っていた。
「悪いが、俺のこれは魔法のイビルアイとは似て非なるものなのさ。厳密にはフォースルールという名のギフトで、目を見る見ないは、絶対条件じゃないんだ。そりゃ、目を見りゃ確実だから、視線くらい向けるけどな」
以前の能力を思い出したに過ぎないので、九郎は別に自慢するでもなく淡々と教えてやったが、もはや返事はなかった。
全員、命令待機状態になっているので、質問以外には応答しないのである。
「さて、後はお互いの情報交換だけど」
九郎が麗達に目を向けたところで、森川が驚きの声を上げた。
「ゆ、結城先生っ……それにアイドルの霧夜麗さんっ」
「あー、まずかったな」
道中説明しておくべきだったのだが、見張りがうろうろしていたせいで、そっちに気を取られてしまったのだ。
「それに、結城先生がどうしてブレザーの制服姿で」
「先生はやめてね。もう今は、花の女子高生なのよ~」
茶目っ気を出したユウキが、いらぬ解説をしてくれた。実際、そう言われると普通に女子高生に見えるので、困りものである。
九郎は両手で口元を覆って混乱状態の森川を見て、急遽、予定を変えることにした。
この子を落ち着かせるためにも、まずゆっくり話ができる場所に移動しよう。
「ユウキと麗、どっちでもいいから、早急に次の避難先を見繕ってくれ。忙しくて申し訳ないが、俺のせいでこの場所もバレちまったらしい。まずは、ここから移動しようっ!」
宣言と同時に、びしっと士官らしき記章を付けた敵兵の一人を指差す。
「おまえも同行してくれ。少しでも情報収集したいから」
……当然、九郎の支配下にあるそいつは、反論しなかった。
どれだけ読者様が重なっているかわかりませんが、一応書いておきます。
「俺が魔族軍で出世して、魔王の娘の心を射止める話」ですが、書籍版には未掲載の番外編をアップしています。
ご興味がおありでしたら、俺魔のページへどうぞ。
(俺魔自体を未読でしたら、読んでも今一つわからないかもしれませんので、スルーでどうぞ)
……最後に、ご感想やブクマなどくださった方達、いつもありがとうございます。