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父上、先鋒はこのルイにお任せを!


 無事にマンションの部屋に戻って、やれやれ一安心……とはならなかった。


 九郎の意見で、帰路の途中でわざと地上に降り、気を遣って目立たぬように徒歩でマンションに戻ったのだが――。

 あいにく、途中で複数の気配を感じたのである。

 もちろん、一般市民ではなく、ぷんぷん殺気を放つ兵士の集団だ。


 歩道を歩く途中、ビルの屋上や空き家の中、それに歩行者に紛れて私服姿でうろつく奴などを見かけた。どうも人知れず、九郎達のマンションを囲みつつあるらしい。

 普通に歩いているとまず気付かないが、魔王としての力を取り戻しつつある九郎の感覚は、ごまかせない。


 まあ、元娘のルイも気付いていたようなので、敵がヘボだったのかもしれないが。


 見張りの連中は、まだマンションに突入する気配は見せていないが、そのうち総攻撃をかけるつもりに違いない。

 唯一の慰めは、実際にナナキと戦ったことが刺激になったのか、九郎がかつてのギフトを、また一つ思い出したことだろう。


 そのギフトとは、遙かな昔、孤独を愛するレイフィール王女(麗)に与えたギフト、「シークレットガーデン」である。

 まあ、今の彼女が持つギフトは、そのほとんどが魔王ヴェルゲンが与えたものなので、本来、ヴェルゲンの転生体である九郎も使えて当然なのだ。

 むしろ、思い出すのが遅すぎたかもしれない。


 実際、このギフトの恩恵は絶大であり、九郎達は厳しい監視の中を、なんなくマンションへと接近することができた。





「しかし、この分だと引っ越したばかりのここも、また移動だな」


 エレベーターに乗ったところで九郎が愚痴ると、森川がうれい顔で見た。


「わたし、敷島君がここへ引っ越したのさえ、知らなかったわ」

「敷島君とな!」


 狼が獲物を見つけたような勢いで、ルイが睨みつける。

 気性の激しい子だけに、早速、碧眼に嵐が宿っていた。


「え、ええっ!?」


 あわあわした森川が怖がり、慌てて九郎の背中に隠れた。


「貴様、平民の分際で、父上に対してその口の利き方はっ」

「やめろって!」


 ようやく、かつての娘だと認める気になった九郎は、遠慮なく豪勢な金髪を引っ張る。


「ち、父上っ」

「この子はまだ何も知らないんだし、知ったところで、俺の同級生という事実に変わりはないんだからな! だからルイも、今後喧嘩を売るような真似はするなよっ。今は俺だって、単なる中坊なんだから」

「は、はい……父上がそう仰るなら」


 渋々矛先を収めたルイを見て、森川が震えるため息をつく。

 なぜか尊敬の目で九郎を見た。


「敷島君、すごい」

「いや……別に凄くないよ。前世の関係のお陰だし……それより俺、嫌なことを思い出した」


 九郎が呟いた瞬間、ちょうどエレベーターが止まった。

 扉を開いた眼前がすぐ狭い廊下になっていて、九郎達の部屋はそこである。実はこの最上階は、天井まで吹き抜けの馬鹿広い空間になっていて、ワンフロア全部が一つの住居なのだった。

 つまり、来客に備えてドアはあるものの、その向こうはすぐ広々としたリビングとなっている。


「俺がここを出てから、まだ一度もユウキや麗から電話がかかってきてない。二人の性格からして、様子見の電話くらいしてくるはずなのに」

「……あの二人ですか」


 声音が嫌そうなのはともかく、自然と腰を低くして、ルイが前へ出る。

 その構えはいっぱしの剣士さながらであり、すぐに虚空から自分専用の大剣を掴み出して戦闘準備に入っていた。

 森川がまた驚いているが、さすがの九郎も今は無視した。


「うわぁ、中に――」

「連中以外の気配がありますね」


 九郎のセリフを、ルイが引き取る。


「父上、先鋒はこのルイにお任せを!」


 九郎は、まずは様子を窺おう――と提案しかけたのに、ルイは発言と同時に長い足を振り上げ、頑丈なドアを思いっきり蹴飛ばした。


 信じ難いことに、金属製のドアがあっさりと中へ吹っ飛んでしまった。


(俺、ドアの鍵なら、持ってたのに!)


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