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皇帝登場


 ハイランド帝国の皇帝バルバロスが、侵攻軍の旗艦であるブラックアローを訪れた時、事前に一切の連絡を受けていなかった艦内は、混乱の極みに達した。


 帝国が保持する全ての戦艦内には、皇帝の乗艦に備えて謁見の間が用意されてはいる。

 だからといって、いきなりふらりと皇帝が訪れることなど、これまでになかったことなのだ。


 だいたい、皇帝陛下は未だ、フォートランド大陸制覇の偉業半ばではなかったのか?

 艦内の全員がほぼそう考え、今回の訪問をいぶかしく思っていた。


 特に、艦隊司令官兼侵攻軍総指揮官の地位にあるフェリクスの混乱は大きい。「果断速攻をむねとする陛下のこと、これはおそらく、ナナキ将軍の戦死をいち早く知ったせいではないか?」と予想し、死を覚悟して皇帝の前に出た。


 常勝を誇ってきた帝国軍なので、当然ながら部下の失態には厳しい。






「フェリクス・レオンハルト、お召しにより参上しました」


 艦内ということを考えれば、十分過ぎるほど広い謁見の間に入り、フェリクスは片膝をついて頭を垂れた。


おもてを上げよ、フェリクス。久しぶりにおまえの顔を見たい」

「ははっ」


 若き主君の要請に応じ、フェリクスはそろそろと顔を上げた。

 ……そこで、思わず眉をひそめてしまう。

 いや、玉座に若き皇帝が座しているのは予想通りなのだが……その脇に立っている年若い少女は、一体いつからいたのだろうか? 自分が入室した時には、皇帝陛下しかおられなかったはずだが?


 フェリクスの困惑をよそに、皇帝バルバロスは、機嫌良さそうに笑った。


 若干十八歳……ハイランド人の特徴である金髪碧眼はもちろんだが、王者にふさわしい覇気が瞳に宿っている。

 彼の前に立って見つめられただけで、自然と緊張する臣下が多いと言われるほどだ。


「はははっ。フェリクス、内心で予がナナキの死をとがめはせぬかと、戦々恐々としているようだな?」

「はっ――相変わらずのご慧眼けいがん、恐れ入ります、陛下」


 剛胆で知られるフェリクスも、さすがに頬が引きつる思いだった。

 別に死など恐れないが、どうせ死ぬなら、戦って死にたいと思うのは当然である。

 刑死は、武人としては明らかに恥ずべきことなのだ。

 だが、既にフェリクスの覚悟は決まっていた。


「責任逃れをしようとは思いませぬ。上官として、そして侵攻軍の総指揮官として、いかなる処分も受けるつもりです」

「よい、さほどに気にするな」


 高々と足を組んだ皇帝は、気怠そうに片手を振った。

 玉座の肘掛けに片肘をつき、微笑してフェリクスを見下ろしていた。機嫌は決して、悪くなさそうである。


「元々ナナキは、この世界の人間共の実力を知るための、一種の試金石であった。将軍の地位を与えはしたが、別に人間ではないしな。未熟なファミリアが戦死した程度のことで、忠臣であるおまえを刑罰に処すことなどせぬ」

「ありがたき幸せっ!」


 フェリクスは感謝と畏敬の念の印に、一層頭を下げた。

 ただ、安堵したのは置いて、疑問は残る。

 フェリクスは、あのナナキが誰かによって創造されたホムンクルスだということを知る、数少ない一人ではある。


 とはいえ、その「誰か」というのが何者かまでは知らない。

 ……もしかすると、皇帝のそばに立つ、この少女だろうか? 年齢の割に、やたらと落ち着き払った風格があるが。


 その疑問を察したのか、皇帝はわざとらしく彼女の方へ顔を向けた。


「ああ、先にこの者を紹介すべきだったな。……おまえ達の援軍として、予が連れてきた。実はナナキは、彼女の弟子が所有していたファミリアなのだ」

「なる……ほど」 


 つまり、今度はナナキの創造主の、そのまた師匠が来たのか……フェリクスはそう思ったが、皇帝の次の言葉を聞いて、驚愕した。


「紹介しよう。まだ十五歳ではあるが、この少女は、十五年前より勇者として転生した戦士だ」


 なにっ!?

 意表をかれたフェリクスは、言葉もなく少女を見つめた。


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