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魔王の娘


 ひとまず、解除しかけたサンクチュアリを維持したまま、まだ空の染みにしか見えない人影を見守った。

 しかし……比べる物のない空だから断言はできないが、どうもこいつのスピードは尋常ではないようだ。


 たちまち黒点は人の形となり、 一秒ごとに巨大化を遂げていく。

 どこから飛んで来たのか知らないが、長い髪をなびかせている女性であるということまでわかった。





「……おいおい、まさか死ぬ間際のナナキが言い残した、『もうすぐ、この地に彼女が来る』ってのが、あれか? 早すぎだろっ。余韻ってものがないというか――うっ」


 途中、遠くからパトカーのサイレン音がして、九郎は飛び上がりそうになった。


「うわ、めんどくさいことに警察まで来たぞっ」


 森川の話では、110番しても話し中で繋がらないということだったのに、こんな時に限って勤勉な連中である。

 しかも、ご近所の皆さんが一斉に通報したらしく、そのパトカーも一台や二台ではない。総勢四台も連なってきていた!


「凶悪犯かよ、俺はっ」


 一人でふて腐れたが、一応、ギフトの影響範囲外に、さらにマジックシールドを展開しておいた。今更警官に押しかけられても、困る。

 その時、上空からごおっという風切り音がして、九郎は慌ててまた空を仰いだ。


「うわ、もう来たっ」


 随分と派手な登場だった。

 空中で減速をかけたかと思うと、長い髪をふわりと舞わせ、すたっとかっこよく着地してのける。九郎が立っている場所から、数メートルほどしか離れてない。

 陽光に煌めく金髪を後ろでポニーテールにまとめた、やたらと豪勢な美貌の少女だった。ナナキよりは年下だろうが、それでも九郎よりは一つか二つほど、年上だろう。


 麗と同じく意志の強そうな切れ長の瞳で、華奢に見える肢体の割に、弱々しい印象は皆無っである。

 しかも、下着のボディスーツかと思うような薄着に、ひらひらのミニスカートと黒ストッキングという格好だった。


 純白のマントまで纏っているので、あと魔法の杖でも持ってたら、完全に魔法少女である。まあ、目つきの鋭さからして、萌え系の魔法少女ではないだろうが。




「……むう?」


 普通、警戒すべきなのだろうが、なんとなく敵ではない予感があり、九郎はひとまずギフトだけは解除した。

 少女は……周囲の惨状にはあまり注意を払わず、ただ九郎だけをじっと見つめていた。


 九郎自身もなぜかこの子が気になり、上から下までじろじろと眺めてしまう……どうでもいいが、胸の形がよくわかる衣装で、目のやり場に困る。

 そのうち、相手の顔がくしゃっと歪んだ。


「な、なんだ!?」


 思わず九郎が後退ると、その分だけ少女が前進してきた。


「……おわかりになりませんか? わたしです、陛下の娘ですっ」

「え……ムスメ? いやいや、まさか――」


 言いかけ、九郎の胸にずきっと痛みが走る。

 前世で、家族がいたことは、おぼろげながら思い出しかけている。

 あいにく、自分が亡くなる以前に……母子共に亡くなっているが。


「え……まさか、ルイ?」


 思い出したというよりは、深層意識に潜む前世記憶が、ふと口をついて出た。


「そう、そうですっ。思い出して頂けましたか!」


 しかし、女の子――ルイは完全に思い出してもらったと確信したのか、それこそ、半泣きで九郎の胸の中に飛び込んで来た。


「うわっ」


 いきなり、自分とほぼ遜色ない身長の女の子に抱きつかれ、九郎は特に胸の感触に陶然となりかけたが……すぐに、ぎょっとする羽目になった。

(な、なんという……俺じゃなきゃ、ヤバかったぞ)

 抱き締める力が、見かけによらず、凄まじいパワーなのだ……以前の自分だったら、口から内臓がはみ出てたかもしれない。


「ち、父上ぇえええ」


 気が強そうに見えたのに、ぐすぐす泣きかけている前世娘を見ているうち、九郎もいつしか頭を撫でたりしていた。


「は、はははっ。なかなか情熱的な娘――」


 苦笑しかけた九郎は、そこでバスの待合所を見て、血の気が引いた。

 タイミング悪く、たった今目覚めたらしい森川が、見るからに蒼白な顔でこちらを見ていた。


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