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もうすぐ、この地に彼女が来るっ


 次の瞬間、炎を纏った女性精霊が三体ほど姿を現し、ナナキの斜め上で浮遊し、業火を吹き上げて九郎を睨み付けた。


「おぉー、なるほど……別に召喚術はこっちでも可能なのな! また一つ再学習した――というか、こういうのは実際にこっちでやってみないと、わからないことだよな。俺も、今後はいろいろ試してみるか」


 他人事のように感心して何度も頷くのを見て、冷静なナナキもかなりむっとしたらしい。

 唇を歪めて「今のうちに言ってるがいいっ」と叫ぶや否や、精霊達に命じた。


「あの男を燃やし尽くせっ」


 召喚主の命令に応じ、三体の精霊が瞬く間に道路を跳び越え、一斉に襲い掛かってきた。

ナナキのそばを離れた途端、纏う炎が爆発的に広がり、激しい放射熱を放つ。


 さらに、今や陽光を覆い隠すほどの光量まであり、眩しいことこの上ない。広がった炎のせいもあり、中心にいるはずの精霊の姿が見えないほどである。

 あまりのまぶしさに九郎が少し目を細めた途端、自分の身長より直径がある炎の固まりが、三つ揃ってぶち当たってきた。


 しかし――結果は、魔導弾が激突した時と、さほど変わらなかった。


 全てを溶かし尽くすはずの炎は、展開したサンクチュアリの絶対支配空間を突破できずにいる。

 それどころかサンクチュアリのギフトが発揮され、彼女達がまとう炎はおろか、本体の精霊ごと瞬く間に魔力変換せんとする。


 最後の瞬間、己の運命を悟った精霊達が焦って離脱したが、間に合わずにそのまま本体が爆砕し、淡い光の粒子となってサンクチュアリ内に取り込まれてしまった。





「おまえ、頭悪いだろ?」


 三体揃って消滅したのを見向きもせず、九郎は叫ぶ。


「言ったはずだぞ、我がギフト・サンクチュアリは、全てを魔力変換してのけると! 例外は俺自身が禁じたものだけだとっ。全ての物質が、理論的にはエネルギーに変換できるのと同じで、俺が支配するフィールド内に飛び込む間抜けは、みんな魔力変換されて俺のかてとなるっ。炎が好みなら、こっちからくれてやろう!」


 宣言した次の瞬間、九郎はナナキを指差して叫んだ。


「暗き冥界よ、我が命令を聞き、この地に顕現けんげんせよっ。憎き敵を地獄の業火で焼き尽くせ、インファナルヒート!!」


 最後のコマンドワードを発した途端、ナナキを中心として業火が弾けた。

 先程の精霊達が纏った、鮮やかなオレンジ色をした炎とは違い、どこかくらい色を纏った怨嗟えんさの固まりのような炎であり、しかものたうつ業火の奔流に、無数の顔が浮かんで苦しげに顔を歪めていた。


 ……あるいはそれは、冥界で永劫えいごうの時間を焼かれている、罪人達そのものだったかもしれない。その証拠に、影のように見えるそいつらは、一人の例外もなく炎から逃れようと、外へ手を差し伸べていた。

 あいにく、逃げ出すことなどできないが。


 九郎が同時にサンクチュアリを展開しているので、不気味な炎は一定以上には広がらなかったが、そうでなければ、下手をすると街中に地獄の業火が押し寄せたかもしれない……天に向かって突き上げる暗い炎を見て、九郎自身がそう確信した。


「おのれぇ、おのれおのれおのれえぇええええっ!」


 影のごとき罪人達と共に悶え苦しみながら、それでもナナキはこちらを睨み付けて立っていた。既に己の死は確信しているのだろうが、捨てゼリフのように叫んで寄越す。


「見ているがいい、魔王ヴェルゲンっ。貴様がどれほどの力を持とうが、無敵ではないと思い知らせてやるっ。も……もうすぐ、この地に彼女が来るっ……そうすればおまえな……ど」


 そこまで口走ったところで、ようやく全身が炭化して崩れた。

 ホムンクルスなので遥かに人間より熱耐性が高いが……しかし、今回はさすがに絶えきれなかったらしい。


 まあ、生物である限り、冥界の一部である地獄の業火に焼かれて、無事で済むはずもないが。

 九郎が術を解除した後には、もうろくに灰すら残っていなかった。

 というより、建設予定地だったその場所は、大地が溶岩状に変化していてぐつぐつ煮えたぎっていた。


「ま、まあ……とにかくこれで」


 自分が行使した力に引きまくっていた九郎だが、ふいに新たな気配を感じ、空を見上げた。





「なんだ、まだ敵がいたのか?」


 蒼天にポツンと見える人影がぐんぐん接近してくるのを見て、九郎は顔をしかめた。


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