魔王の聖域と呼ばれる能力(ギフト)
しかし、いち早く道路向こうの建設予定地にまで下がっていた女将校は、とことん愛想のない女だった。
返事などせず、周囲の部下に一斉に命じた。
「二人共、殺しなさい!」
途端に、弾丸ならぬ魔導弾を一斉に放つ轟音が響き、待合所に殺到する。
しかしあいにく、九郎達の肉体を破壊する前に見えない防壁にぶつかり、華々しく閃光を散らした。
不可視の防壁に命中する度になんとも言えぬ鈍い音がして、命中した一瞬だけ九郎の周囲が光るが、それだけである。
九郎を中心にドーム状に展開された防壁を、まるで突破できずにいる。
「説明自体、あまりしたことないが……俺の一番の強みは、魔力が枯渇する恐れがほぼ皆無ってことなんだ。大抵のルーンマスターはマナを必要とする。しかし俺にとっちゃ、魔力なんて海の真ん中で海水を汲み上げるようなもので、魔力源はそこら中にある」
九郎は肩をすくめた。
「だからこそ、莫大な魔力を必要とする、こんなギフトも発動できちまうんだな」
無駄にあきらめの悪い連中が撃ちまくり、轟音と閃光が連続する中、九郎はあえて静かな声音で教えてやった。
「これがギフト――だと?」
そろそろ無駄だと気付いたのか、自分だけは銃を下げ、女将校が忌々しそうに尋ねる。
「そうとも。時に人が持つ、特殊な能力……そういう意味でのギフトだ。その効果は、張り巡らさせた防御フィールドが、俺に放たれた全ての攻撃を瞬時に魔力変換し、俺自身に供給してのける。例外は、俺が禁じた物だけだな」
そこまで話した時、そろそろ手持ちの魔導弾が尽きたのか、やたらと撃ちまくっていた連中の攻撃が止み始めていた。
九郎は意識して人の悪い笑みを広げ、女将校を含めてそいつらをぐるっと見渡す。
「つまり、おまえらがどれだけ俺を攻撃しようが、ギフト発動中は、俺にせっせと魔力を供給してるようなもんだよな。ご苦労様なことで、はっは!」
「聞き覚えがある……確か、サンクチュアリ(聖域)? 前世で、そう呼ばれたギフトか」
女将校が歪んだ声で呟いた。
「ああ、敵が勝手にそう呼んでいた時もあるな、うん。そうは外れてない。確かに、魔王が作る聖域みたいなものだ」
「おまえ……おまえは、本当にかつての魔王ヴェルゲンだったのか!」
「今頃気付くなよ、遅いぞ」
九郎は冷たく言い捨てる。
「なら、言わなくてもわかるよな? 俺はかつて、あのフォートランド世界の統一を果たし、世界の覇者として君臨した。その俺を、おまえごときホムンクルスが、お手軽に片付けようってか? せめて、主人が出てこいよ」
「おまえ……気付いていたの、私の正体に」
「魔法で創造したファミリアがいる身だからな。そら、気付くさ。裏に誰がいるのか知らないが、もしおまえの主がハイランドの皇帝だったら、そのうちそいつにも後を追わせてやる。俺のクラスメイトを巻き込んだ罪は重い」
おまえらも全員含めてだぞ、わかってんのか! とばかりに、九郎は雑兵を含めて全員を睥睨する。
「というわけで、まずは雑兵達に、手痛い教訓をやろう。――雷よっ」
九郎が合図した刹那、有り得ないことに雲一つない蒼天から雷鳴が轟き、青白い雷光が無数に放たれた。
……しかも全ての閃光が、正確に雑兵達を直撃した。
叫ぶ暇もなく、全員がその場で昏倒してしまう。例外は女将校一人で、そいつだけは九郎があえて外している。
「しばらく動けないだろうが、死にはすまいさ。連中は、命令で動くただの兵士だからな」
息を吸い込んで睨む女将校に、九郎は気安く話しかける。
「あと、おまえのこともだいたい思い出した。多分、将軍の一人でナナキって奴だろ?」
「……エイレーンから聞いたか。しかし、私をホムンクルスと見破りながら、侮り過ぎたのは油断だったわね」
言い捨てた直後、ナナキは大きく両手を広げて叫んだ。
「我が召喚に応じ、この場に姿を見せなさい、炎の精霊よ!」
気付くの遅いですが、日刊総合ランキングの下の方に引っかかってました。
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