やめてっ
しばらく黙って見つめ合う羽目になってしまったが、もちろん主人格である九郎の本音的には、「うおっ。そういうことなら、超お付き合いしたいっ」となる。
ならいでか、という感じである。
ただ、前世の魔王としての意識が混在する今は、こうも思うのだ。『で、今やハイランド帝国から目を付けられているおまえが森川と付き合ったとして、この子の安全に責任持てるのか?』と。
自分と一緒にいる時ならまだしも、まさか四六時中、森川とくっついているわけにはいくまい。よもやとは思うが、敵が自分とこの子が親しいと気付き、防御手段を持たないこの子に目をつけ、人質とかに利用したらどうする!?
麗やユウキならそうそう簡単に誘拐などされないだろうし、それにあの二人は、九郎がどう説得しようと、金輪際、逃げたりはすまい。
だから九郎も、いわば戦友として共闘できるわけだ。
しかし、さすがに一般人の女子中学生を巻き込むのはまずかろう。
数秒くらいの間にそこまで考えた九郎は、結局、歯切れの悪い返事をすることになった。
「気持は、めちゃくちゃ嬉しいっ」
まず、誤解のないようにそこを強調する。
「真面目な話、天にも昇る気分だ。……ただ、俺には事情があって」
「気にしないで」
森川がふいに口を挟んだ。
まだ続きがあったのに、どうやら勝手にその先を察したらしい。
「わたしは、告白するならもう今しか機会がないと思ったから、押しかけてきたの。本当に……こうして正直に言えただけで、満足だから」
森川は、なんだかひどく透明な微笑を広げた。
「いやいやっ。早い、諦めるの早いだろ!」
なぜか激情が込み上げてきて、九郎は思わず待合所のベンチを立った。
斜め前から森川を見下ろす位置で、熱心に言い聞かせた。
「仮に引っ越しすることになったって、今じゃネットもあるし、なんなら俺が会いに行くことだってできるだろっ。別に今しか機会がないとか、そんなおまえ」
我ながら未練たっぷりであることが見え見えな説得だったが、しかし途中で、九郎は嫌な可能性を思いついた。
……今から思えば、この子は最初から、どこか諦めたような雰囲気を纏っていなかったか? 両親の海外出張の滞在延期が決まった数年前、自分もかなり自暴自棄になっていたことがあるが、あの時にこの子と同じような――
そこまで考えた時、異変が起きた。
「なんだっ!?」
殺気を感じて振り向こうとした瞬間、背中に激しい衝撃を受け、九郎は為す術もなくふっ飛び、待合所の奥の壁に激突した。
(油断したな……これ、多分致命傷……だ)
その証拠に、最初の衝撃以来、全く痛みを感じない。
俯せに倒れているようだが、わかるのもそのくらいだ。
朦朧とする意識の中、森川の悲鳴と自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、もはや九郎の意識は砕けつつあった。
「あらあら、予想外ね……あっさり倒せたのか?」
口元を覆って立ち上がった薫子が九郎を抱き起こそうとしたところへ、一体、いつから接近していたのか、異様な格好の金髪女性が道路の方から歩いてきた。
着用しているのは軍服に見えたし、手に大型の銃……に似た物を持っているので、おそらく異世界人の侵攻軍だろう。
もっと観察すれば、いろいろわかったかもしれないが、森川は背中に大怪我を負った九郎のことで、頭が一杯だった。
「――く、九郎君!?」
ようやく我に返って声が出せるようになり、生まれて初めて、好きな人の名前を呼んでしまう。
あと、近付いてくる女がまた九郎に銃を向けようとしたので、薫子は倒れた九郎の前に立ち塞がり、両手を広げた。
「やめてっ」