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ご寵愛?


 そんなお願い、していいのかっ!? と誰よりも九郎自身が怯んでいたが、仮に彼女がテレビ局の片棒担いでいるのなら、もはや九郎にとってはただの「嫌な女」である。


 ファンを続ける気など、欠片も残らないはずだし、問題ない。そして可能性からすれば、テレビ局陰謀説の方が大きいに決まっている。

 転生に魔王に王女と、これまでの話ですら、有り得ないようなキーワードが満載なのだから。


(99パーセント、仕込み話だろうけど……もし本当なら、後で平身低頭で謝るさっ)


 開き直った気分で、九郎はそう決心した。

 実際今のお願いは、品性下劣なところは置いて、テストとしてはこの上なく精度が高いと思う。ホントに脱ぎだしたら、俺が美味しい――じゃなくてっ、もはや彼女の話に疑う余地はないと認めようじゃないか!


 よくよく慎重に考えるなら、これはあまりにも危険な賭けなのだが、脳内飽和状態にある九郎にとっては、その時は実によいアイデアに思えたのである。


 ……彼女が静かに立ち上がって、九郎の前に立つまでは。





「な、なに?」

「いえ……せっかくのお求めですから、九郎さまの身近で脱ぎます」


 儚い笑顔のまま、消え入りそうな声で言うと、麗は背中に手を回し、豪勢な衣装を脱ぎ始めた。


「え、ええっ!?」


 九郎があわあわしているうちに、麗はためらいなく手を動かしていく。

 さほどの時間をかけず、凝った飾りのついた上衣を脱ぎ捨ててしまう。その下はもはや半裸状態であり、贅肉の欠片もないなめらかな白いお腹と、可愛いおへそが丸見えだった。


 あと上衣で残っているのは、ブラ代わりにも見える、ごくごく薄手の光沢のある青いビスチェのみである。

 しかも、彼女は流れるような手の動きで、それすら思い切りよく脱ぎかけている。背中に手を回してゴソゴソしていたかと思うと、ビスチェもさほど時間もかけずに外れてしまった。九郎としては完全に計算外だったが、麗の顔が真っ赤である。


 まさかと思っていたので、制止をかけるのがだいぶ遅れてしまった。

 我に返り、「ちょ、ちょっと待った!」と激しく止めた時には、麗は既に全部脱ぎかけていた。ゴシックドレス風ではあっても、コルセット装備ではなかったためか、一人でもなんとかなったようだ。


 おまけに、最後に外したビスチェの下はもはや何も残っておらず、九郎が目を逸らす前に、一瞬ではあるが、危険な部分まで見てしまった。

 動揺しまくりの九郎とは違い、頬こそ赤くても、麗は落ち着いていた。外しかけていたビスチェを抱き締めるようにして、小首を傾げている。


「……どうかなさいましたか?」

「とにかく……先に、服を着てくれ」


 ソファーから立って明後日の方を見ると、九郎は真っ先に頼み込んだ。





 ――衣擦きぬずれの音が続き、ようやく「もう大丈夫でございます」と麗が声をかけた時には、九郎はもう五年ほど寿命が縮んだ気がした。

 当然、ソファーに戻った途端、自分がなにを疑っていたのか白状し、許しを請うたのだが……麗は特に腹を立てることなく、笑って許してくれた。


「このような話が荒唐無稽であることは、さすがの麗にもわかります。ですから、そのように謝罪なさることはありません。麗としては、身の潔白を信じて頂けて満足ですし――それに、本音を申し上げれば」

「……本音?」


 声が途切れたので、奈落の底まで落ち込んでいた九郎は、そっと促してやった。

 本音がどうのと聞くと、やはり気になる。


「ほ、本音を申し上げれば、少し残念でございました……前世の麗は、とうとう魔王陛下のご寵愛ちょうあいを頂けず仕舞いでしたから」

「ご、ご寵愛?」


 なにそれと九郎は思ったが、赤い顔で俯いてもじもじと肩を揺する麗を見て、ようやく察した。つまり……ナニか!



 そこに思い至った途端、今更ながらどばっと頭に血が上り、九郎自身も長らく俯いたままだったのである。


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