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その男の子とやらは、どちらへ向かったの?


 九郎が、森川を前にして焦っている頃、さっきまで二人がいた児童公園では、大きな異変が起きていた。


 大の字に倒れていたスキンヘッドは、既にどこかへ立ち去った後だったが、その代わり、公園の隅に小型飛行艇が停泊し、続々と兵士が敷地内に降り立っていたのだ。

 指揮しているのは、将軍の階級章を襟元につけたナナキであり、指揮官だと教えられなければ、スーパーモデルと勘違いされたかもしれない。


 彼女もそうだが、金髪碧眼の男女がこれほど大勢うろうろするのは、この公園始まって以来のことだろう。





「痕跡が残っているかもしれないわ。隅々まで探すのよっ」


 青い軍服を押し上げる胸の下で腕を組み、ナナキは鋭い声で命じる。

 侵攻が次の段階に入った今、ナナキはもはや、上空に浮遊する戦艦の一つを任されている。


 しかし、先日任務を与えた女性士官が、部下を全員失って戻ってきたのは、忘れていない。

 それなりに優秀だったはずの部下が、敵に完敗を喫した上に、記憶まで一部奪われていたのだ。帝国軍人としては、あるまじき失態である。


 そのため、日頃から地上の監視は厳重にしていたのだが――つい先程、艦内のオペレーターが、「付近で微弱な魔力を探知!」と報告したのだった。


 問題の場所は、少し前に部下のエイレーンが惨憺たる敗北を喫した場所に近い。

 その報告を聞いた故に、ナナキは部下を伴って駆けつけてきたわけだ。

 あいにく到着した時は、単なる人気のない空っぽの公園だったが、ナナキはすぐに引き上げる気はない。

 魔力探知の精度を信じるなら、必ず誰かがここで魔法を使ったはずなのだ。

 攻撃魔法とは限らないが、魔力を必要とする、なんらかの魔法を。






「手の開いた者は、周辺の聞き込みへ向かいなさい! 手荒な方法を使ってもいいから、一時間ほど前に、この公園にいた者の情報を集めなさい。住宅地の中なのだから、目撃者がいるかもしれないわっ」


 数十名の部下を手足のように使う彼女は、日頃軍内では「非情の女将軍」などと呼ばれたりするが、この指揮ぶりを見れば、あだ名に異を唱える者は少ないかもしれない。

 厳しい上官がすぐそこに控えているだけに、当然ながら、部下達も懸命に探す他なく、そのうち、配属されたばかりの新兵が走ってきた。


「将軍っ、向こうの木陰に、通信機のようなものが」


 小型の携帯電話をナナキに差し出す。


「おそらくですが……魔力ではなく、電力と電波を使った通信機械ではと」

「知ってるわ」


 得々とした口上を、ナナキは素っ気なく遮った。

 どうして新兵には、こう無能が多いのかと思いつつ。


「これは携帯電話というのよ。いくら赴任したばかりでも、それくらいは事前に調べておきなさい」


 じろっとナイフのごとき視線で新兵を見た……一瞬だけ。


「あなたは、戻ったら十日間の謹慎と室内学習を命じます」


 絶句した部下を放置し、ナナキは手袋を嵌めた手で、しげしげと携帯を眺めた。

 デザインと色からして、女の子の持ち物だろう。

 通話記録が残っているはずだから、この件と関係あるかどうかは、すぐにわかるはず。


 次に打つべき手を考えるうちに、さらに駆け足で一人が報告にきた。

 今度は、士官候補生の女性である。


「将軍っ。住民の一人から証言を得ましたっ。つい先程、十名前後の暴徒が、二人の男女を囲んで脅していたと」

「ほう?」


 ナナキは微かに唇の端に笑みを刻む。

 ほら、痕跡が見つかった。


「今は誰もいないけど、結局、どうなったの? その二人は、既に病院送りなのかしら?」

「いえ、それが驚いたことに……少女を庇っていた男の子が、たった一人で首謀者らしき男を倒してしまい、その者を含め、残りは全員逃げたそうです」


「男の……子」


 これは偶然だろうか? 

 つい先日、部下を失って帰還したエイレーンの報告でも、「最後に少年が出てきた」と証言していたはずだ。

 軽く頷くと、ナナキは即、訊き返した。


「興味深い証言ね。それで、その男の子とやらは、どちらへ向かったの?」


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