告白
「ええと……そういや、俺の電話番号はどうしてわかったのかな?」
九郎が試しに話を変えると、これには答えてくれた。
「前に山岡君に尋ねたら、わたしの番号と交換で教えてくれるって言ってくれたから」
「うおっ」
またあいつか! しかも、以前はリアル女に興味ないようなこと言いつつ、お嬢様の電話番号と交換かよっ。
ニヤけた友人の顔を思い出し、九郎は一人で奥歯を噛みしめる。
人の個人情報をなんだと思ってるんだ、あいつはっ!?
「なんで、俺本人に訊かなかったんだ?」
愚痴る代わりに、九郎は一番の疑問を尋ねたが、森川はまたしても赤くなり、俯いてしまった。
なにやら深い事情があるのか、先を続けるのがためらう素振りを見せている。
ここは自分が気を利かせ、話しやすく明るい雰囲気を作ってやるべきだろう。
珍しく気を遣った九郎は、何気なく、そして気軽に尋ねた。
「ところで、今後のことは決まってるのかな? 卒業までは一人暮らし……とか?」
「……ううん」
やたらと暗い返事だった。
「親戚の誰かに引き取られることになるんだって。……でも、その大勢いる親戚は、今みんな、うちの遺産相続のことで揉めていて、まだわからないの」
明るい雰囲気どころか、さらに場の空気が暗黒に染まってしまった。
よく考えたら三年とはいえ中学生なんだし、一人でやっていくなんて、周囲が許さないに決まっている。
自分の間抜けさ加減に頭が痛くなり、九郎は内心で呻いた。
「そ、それにしても遺産相続って……一番は森川だろうに」
「そうらしいけど、でもその場合はわたしを引き取る家が養育費として遺産を多めに請求できるとかで、それも揉めてる……原因」
自分でも思うところがあるのか、最後の方で少し声が詰まっていた。
「なんだよっ、そいつらは金のことばっかりか!」
義憤を感じて思わず九郎が愚痴ると、森川がそっと顔を上げて、上目遣いに見た。
「あ、悪い。事情もろくにわかってないのに、これも余計だな」
「……ううん。本当は、わたしもそう思ってたの。誰もわたし自身のことは心配してくれないんだなって」
肩にかかった黒髪を払い、森川が哀しそうにため息をつく。
この子は、おかっぱ頭の美幼女が、年を経てそのまま美貌に磨きがかかったようなところがあり、綺麗に揃えた前髪やら大きな瞳やらを見ていると、(麗は別として)下手なアイドル顔負けである。
おそらくどんな美人コンテストに出しても、上位入賞余裕だろう。
同情しつつも、九郎が思わず見とれていると、なぜか森川が深呼吸して、きちんと視線を合わせてきた。
「だ、だから……やっぱり今のうちにちゃんと言っておきます」
なぜか敬語で宣言し、森川は潤んだ瞳で言った。
「わたしは……ずっと敷島君のことが好きでした」
九郎は――しばらく何を言われたのかわからなかった。
内容が意外にも意外過ぎて、まともな意味を成して頭に染み込んで来ない。
最近はこういうギャグが女子に流行ってるのか? などと考えていたほどだ。
互いに黙った見つめ合うこと数秒……急に噴き出したりせず、真面目な顔のままの森川を見て、ようやく「え、今のはギャグじゃないらしいぞ」とじわじわと理解できた。
「……う。そのっ」
これは駄目だ……気が利いたセリフなんか、全く思いつかない。
こういう時、どんなことを言えばいいんだろう。
麗の時ですら、意外性は置いて、ここまでストレートな告白ではなかった。
神様……俺、生まれて初めて女の子から告白されたんだけど、どうすんだこれっ!?
冷静に考えれば、返事などそう何種類もないだろうに、九郎生来の非モテ中学生男子の部分があからさまに動揺し、じっとりと汗までかき始める始末だった。