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真っ赤な森川

 ……しかし、あいにく九郎から見れば、あくびが出るようなレベルのスピードだった。


 どうも、相手が繰り出す攻撃によって、速さを認識する能力が勝手に切り替わるらしく、今や本当にスローモーションのように見える。

 もしかすると、飛来するのが拳ではなく銃弾でも、同じことかもしれない……そんな気がしたほどだ。

 単純な好奇心でわざとパンチを受けてみたが、殴られたという気すら、あまりしなかった。なにかこう、やんわりと撫でられた程度にしか感じない。


「敷島君っ!?」


 しかし、森川は殴られた九郎を見て、悲惨な悲鳴を上げた。


「わっ」


 今のパンチより、その悲鳴に驚く始末である。





「つ、つつっ」


 むしろ、スキンヘッドの方がよろめいて後退り、自分の拳を押さえて呻いている。

 とりあえず九郎は無造作に接近し、なるべく加減して蹴飛ばしてみる。まずは、力の加減を覚えるつもりで。


 ところが――敵はとことん運のない奴で、ちょうどよいタイミングで、さらに頭を下げてしまった。

 お陰で、繰り出した蹴りがモロに相手の喉元を襲い、スキンヘッドは撃ち出したロケットみたいな勢いで宙に飛んだ。


「あ、まずった」


 前にも増して派手にすっ飛んでいく巨漢を見て、九郎は頭を掻いた。

 これは……真面目にまずいかもしれない……死んだかも。


「え、ええっ!?」


 九郎が危ないと思って泣きそうになっていた森川は、逆に見事に吹っ飛び、どさっと落ちた敵を見て目を瞬いた。


「ほらな? 本当に大丈夫なんだ」


 そっと森川の肩を叩き、九郎は倒れて動かないスキンヘッドの方へ歩み寄る。途中、それぞれ武器を持って駆けつける寸前で停止した取り巻き共を見て、軽く力を込めて怒鳴ってやった。


「いい加減、どっかへ散れっ」


「わあっ」

「わわっ」

「なんだあ!?」


 本当に九郎の遺志に応じて不可視の力が発揮されたらしく、怒鳴った途端、彼らは気功で吹っ飛ばされたかのように、その場に倒れたり弾き飛ばされたりした。

 もはや、向かってくるどころではない。

 九郎は、自称気功師みたいなのが使うああいうのはインチキだと常日頃思っていたが、さすがに「そうでもないらしい」と実感してしまった。


 ……しかも、動かないスキンヘッドに歩み寄ってみれば、白目を剥いて痙攣していた。

 見た目からして、完全に顎が潰れていて、くしゃっと顔が縮んでいるように見える。以前の九郎だったら、見るなり吐いてたかもしれない。


(うわぁ……こりゃ今にも死ぬな。て、おっと)


 おずおずとそばへ来ようとしている森川を見て、九郎は慌てて内心で力……いわゆる魔力を集中した。


「ギフト――治癒!」

 

 囁き声で発動する。

 正式な魔法治癒ではないが、なにしろ魔力キャパシティ(容量)だけは有り余っているので、九郎がそいつの顔の上に手をかざして呟いただけで、見る見る治癒が進み、破壊された顎が素早く復元していく。飛び散った歯まで、元通りに収まるのを見ていると、YouTubeのフェイク動画もびっくりだった。

 呼吸も落ち着いたので、もう大丈夫だろう。


(お陰でまた一つ、自分の能力を思い出したな)





「し、敷島君……あら」


 安らかな顔になって大の字に倒れている男を見て、恐る恐る覗き見た森川が首を傾げた。

 あの勢いで飛ばされたのだから、スキンヘッドはさぞかしひどい怪我だと思ったのだろう。事実、数秒前まで死にかけていたのだが。


「ほら、こいつも別に死んでないし。あと――」


 周囲を見渡し、這々(ほうほう)のていで逃げて行く取り巻き共を見て、九郎は肩をすくめた。


「……他の連中も逃げたらしいよ」


 まだ信じ難いのか、九郎と倒れたままのスキンヘッドを見比べている森川に、言い聞かせてやった。





「それで、俺に用事でもあったのかな……あと、なんで電話番号知ってたんだ?」


 空気を変えるつもりで尋ねると、なぜか森川は息を呑み、慌てて俯いた。

 しかも、顔を真っ赤にして。


 え……なんだ、その反応?


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