表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/96

実はもう、やっちまうって決めてるからよ


 九郎は、眉根を寄せて切れたiPhoneをポケットに突っ込み、おもむろに立ち上がった。

 高山町……それは、以前自分が住んでいたマンションがある場所だ。

 問題の児童公園も、登下校時に何度も脇を通っている。


「ユウキと麗は、連絡あるまで待機していてくれ」


「お手伝いしますっ」

「九郎様のファミリアですし!」


 二人が同時に立ち上がったが、九郎は首を振った。

 なんとなく、今回は一人で行った方がいい気がしたのだ……単なる勘だが。


「手に余ると思えば頼むかもしれないが、まさかそこまでの状況ではないはずだ。急ぐことは急ぐけどなっ」


 宣言するなり、九郎はリビングを走り出てバルコニーに出る。

 まだ夕刻なので、人の目もあるかもしれないのだが、おそらくあの森川の悲鳴の調子からして、一刻を争うはず。


 いつも慎重な態度をかなぐり捨て、九郎はそのままバルコニーの手すりをジャンプして、虚空へ飛び出す。

 一応、魔力飛行のテストくらいは、前にやっている……その時は深夜だったが。


(あと一分――いや、三十秒だけ待っててくれ!)


 一瞬でトップスピードに達した九郎は、真っ直ぐに元マンション付近を目指した。







 ――森川薫子もりかわ かおるこは、いつしか児童公園の隅に追い詰められていた。


 助けを求めたのはいいものの、ほとんど九郎が間に合うとは思っていなかった。

 そもそも、九郎より先に警察に電話したのも、「まず警察にっ」と思ったからである。


 ただ、もはや警察組織さえも瓦解しているのか、あるいは街中から電話が鳴りっぱなしなのか、110番は話し中のままで、ものの役に立たなかった。

 だから、やむなく今から行くところだった九郎の家に電話したのだが……彼だって、そんなすぐに大勢集められないだろう。

 だいたい、状況を説明する暇もなかったことだし。


(それでも、弱気を見せたら、余計につけ込まれちゃうっ)


 泣きそうになるのを堪え、薫子は相手を睨んだ。

 ……少なくとも、今正面に立っているのは、スキンヘッドの巨漢が一人だけだ。

 彼の周りを囲むように、仲間みたいなのが七名もいたけれど。


「返してくださいっ」


 薫子は、スキンヘッドが取り上げた携帯に手を伸ばす。


「それ、わたしのです!」

「おっと……ははっ」


 身長百八十センチ以上はあると思われる彼……いやそいつは、ニヤけた顔で取り上げた携帯を頭上に差し上げた。


「いやいや、元はと言えば、ねーちゃんが悪いだろ、な? 俺達ゃただ、ちょっとお話ししたいと思っただけなのによー。いきなり警察に電話するわ、誰かにヘルプの電話するわ……俺達の繊細なガラスハートがいたく傷ついたわ。なあ?」


 ぐるっと仲間を見渡し、そいつが同意を求める。

 全員、ニヤニヤと頷いていた。


「だって!」


 今にも涙がこぼれそうなのを我慢して、薫子はさらに反論する。


「いきなり、スカートめくろうとしましたっ」


 ついでに、なんとか走って逃げられないかと思ったが、あいにく背後にも二人ほど回り込んで退路を塞がれてしまった。


「うん、めくろうとした」


 意外にも、スキンヘッドは素直に頷いた。


「こんな時に、セーラー服着て歩いている可愛い子ちゃんがいりゃ、そりゃめくるわ」


「そうそう、それに俺達、下着の色で金賭けてるわけで。ちなみに、俺は純白」

「俺は青」

「俺はな、大穴で赤な――」


「大声出しますよっ」


 たまりかねて、薫子が叫ぶ。実際、もう大声は何度も出している。

 全然、誰も来ないが。


「試してみろよ?」


 ふっとスキンヘッドの顔から、表情が消えた。

 気味の悪い能面みたいな顔で、薫子を舐めるように見た。


「実はもう、やっちまうって決めてるからよ。……さすがにここじゃなんだが、近くに部屋も確保してある。犯すのは、おまえでもう三人目だ」


 そこで、舌なめずりなどした。


「下着の色もだが、俺は処女の方にも賭けてっからな。がっかりさせないでくれよ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ