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父上(九郎)の居場所だけ、教えるがよい



 しばらく、誰も何も発言しなかったのは、衛兵の声が聞こえなかったためではない。


 あまりにも意外なセリフを聞き、反応しようがなかったのである。

 ようやく、一番冷静なエルフのブランディスが驚きから醒め、眉をひそめた。





「何かの間違いでしょう? 息女というのがルイ様のことなら、陛下の崩御以前に戦死されているでしょうに」

「も、もちろん、それは私も存じ上げていますっ」


 慌てて衛兵が手を振る。


「しかし、ご本人様が仰るには、『自分はとうに転生していて、今日になってようやく、前世記憶を取り戻したのだ』と、そう仰るので」


「ぬうっ」

「まさか!」


 今度はサイラスとジャニスの声が重なる。

 魔王陛下が転生したくらいだから、まあ有り得ない話ではない――が。

 しかし、輪廻転生は、このフォートランド世界にあってさえ、珍しい事象である。そう簡単にほいほい転生したりするだろうか?


 むしろこれは、帝国側の罠と考えた方がよい気がする。送り込まれたスパイとか!


 ……言葉にしなくても、三名の脳裏に浮かんだのは、まさにそのことである。

 しかし誰も発言しないので、やむなくといった感じで、唯一の男であるサイラスが朋輩二人を見た。


「……どうするかね?」

「とにかく、お会いしてみるしかないでしょうね。真偽を確かめるにしても、まずはお会いしないと」


 美貌にあからさまな疑いの表情を浮かべ、ブランディスが肩をすくめる。

 やはり、誰しも考えることは同じらしい。


「だよなあ」


 サイラスも頷き、ジャニスは反対したそうな顔付きのまま、無言を貫く。


「というわけで、その少女をここへ――」


 サイラスが改めて衛兵に命じようとした途端、ドカッと凄まじい音がして、軍議の間のドアが吹っ飛んだ。


「げふうっ!?」


 悲惨なことに、ドアのすぐ手前に衛兵が立っていたため、彼は重たそうな木製ドアの直撃を受け、昏倒してしまった。

 ……追い打ちをかけるように、なんの反省もなさそうな態度でズカズカ入ってきた少女が、そのドアの上を歩いて通る。


 下敷きになっている衛兵のことなど、気付きもしないようだった。





「いつまで待たせるのだ、いつまでっ!」


 豪勢な金髪を掻き上げ、きっとなって三名を睥睨する少女……服装こそ、帝都の平民のそれだが、碧眼に宿る光りの鋭さは、ただ事ではない。

 現に、猛将のジャニスでさえ、目を瞬いて反論できずにいる。


「ルイ自らが城に出向き、話があると申しているのだっ。待たせずに、さっさと通さぬか!」

「いや……あの」


 気を呑まれたサイラスが、もごもごと呟く。

 うわぁ、これは――外見は以前と違えど、どうも本物のルイ様のような……そう思わずにはいられなかった。

 見た目は全然、まだまだ少女だったが。


「ルイとて、おまえ達の呆けた顔など見たくもないっ。ここへ来た用件は二つ、おまえ達がいながら、現状、我らの帝国が崩壊していることの釈明と――噂に聞く、転生した父上の居場所を教えてもらおう」


 言い切った後、すぐに自ら首を振った。


「いや、今更おまえ達の言い訳など聞いたところで、せんないこと。……父上の居場所だけ、教えるがよい」


 ルイは「父上」と声に出した時のみ、愛情に溢れた可愛らしい表情を見せた。

 ……もっとも、三名揃って呆然としているのを見た刹那、すぐに険しい声で怒鳴られたが。


「だから、さっさと教えぬかあっ。このルイに、揃って首を刎ねられたいか!」


 嫌過ぎることに、完全に本気の口調だった。

 実際、早速その小さな手に、巨大なバスターソードが握られていた。


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